846.村人の一日
ヒールベリーの村にて。
爽やかな秋の日差しの中、ナールとアナリアは広場でお茶をしていた。
「今日はいい天気にゃ……」
「本当に……でもなんだか不思議な気分ですね。秋でも葉の色が変わりませんし」
アナリアは村に建つ大樹の家を眺めながら答えた。
「魔法の建物だから、きっと特別にゃ」
今日は休みなので、かなりの数の村人が広場にいる。
のんびりお茶を飲んでいたり、あるいは野ボールで運動していたり……。
「ウゴウゴー!」
ウッドが力強く、いくつものボールを空へと投げる。
「「にゃああん!!」」
そうすると、何人ものニャフ族がボールを追ってダッシュを始めた。
「もっと、ウゴウゴー!」
「「にゃ、にゃあああああんん!!」」
ニャフ族が右へ左へ走るのを見て、ナールの尻尾がふるふる揺れる。
「ナ、ナールも行っていいんですよ?」
「大丈夫にゃ。あちしの心はさざ波のように穏やかにゃ……!」
ナールが広場の隅で集まって昼寝している地下コカトリスたちを見る。
「すやー、ぴよぅ……」
「ぴよ、ぴよよ……」(もしゃもしゃ……)
半分寝ぼけながら、コカトリスはおやつの草だんごを食べている。
あまりに優雅で怠惰なコカトリスライフだった。
「あんな感じに穏やかにゃ……」
「そ、そうですか……」
タージリンの豊かな香りを楽しみつつ、アナリアは視線を巡らせる。
「エルト様の発案で、この村でも『山車』を出すことになりましたが……」
「いいことにゃ。すごく目立つし、宣伝効果は抜群にゃ」
「問題は何の山車を作るか、ですね」
「メインは冒険者ギルドの巨大コカトリス像にゃ?」
「数年前にリニューアルして、ひと回り大きくなりました」
アナリアはふふりと微笑む。
可愛らしいコカトリスの像は、ザンザスでも愛されていた。
「例年の薬師ギルドは、カラフルに染めた飾りの山車ですね」
「万華鏡みたいなやつにゃね」
「そうですそうです、アレは中々楽しいですよ……!」
数十種類の薬剤を用意し、普段は作らない色の飾りを作る。
それが薬師ギルドの用意する山車だ。
ポーション作りに情熱をかけるアナリアには、腕試しにもってこいのイベントだった。
「にゃーん。ザンザスの三大ギルドの残り、鍛冶ギルドは……」
「毎年、巨大な武器か防具ですねぇ。去年は剣でしたか」
アナリアは少し目を伏せた。その時の剣は、ただの巨大な剣ではない。
『うっかりステラが折ってしまった、名剣の巨大レプリカ』
そういうコンセプトだったのだ。
ステラが知ったら、きっと遠い目をするに違いないが……。
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