836.夜になって
夕陽が落ちる直前、俺とステラは家に帰ってきた。
リビングで休みながら今日の決め事を振り返る。
あとあとも色々と決めたこと、決めるべきことが見えてきていた。
「今日は色々と話をしたな……」
「ですね。宿泊場所のことも決まりましたし……。地下も良い案に思います」
ステラの膝の上からディアが聞いてくる。
すでに子どもたちものんびりモードである。
「ぴよ。あのきらきらしてるところぴよ?」
「ああ、地下はまだまだスペースがあるからな」
大樹の家で宿泊場所を作ってもいいのだが、そうすると村の中心から外れてしまう。
その点、かつてララトマが住んでいた地下空間は広々としている。
日常生活をずっと地下、というのはドリアードだからこその芸当として……。
宿泊場所なら蛍光苔もあるし問題あるまい。
「わふぅ。いいと思うんだぞ。お祭りに合わせて、そーいう場所は必要だぞ」
「ウゴ、ふかふかのベッドは大事だよね!」
マルコシアスはウッドに寄りかかりながらまったりしている。
完全に飼い犬状態だな……可愛いが。
「村の施設も強化が必要ですね」
「そうだな、一時的に食事できる場所も増やさないと」
もし今のヒールベリーの村に数百人の観光客が押し寄せたら、食べる場所が足りない。
食材は魔法で作れても、快適に過ごすのは不可能だろう。
「観光客の動線も上手くしたいところだ」
そんなことを話していると、ディアがもぞもぞと羽を動かした。
少しわかってきたが、お腹が空き始めるとディアはあの動きをする。
「そろそろ夜ご飯を作り始めましょうか」
「ぴよっ。ご飯ぴよー!」
「はい、今日はわたしが当番ですね……!」
ステラがディアを抱えて立ち上がる。
そして俺の膝の上にディアをそっと置いて、キッチンへと歩いていった。
「ぴよー、とうさまー」
「よしよし、今日もふかふかだな」
俺がディアをそっと撫でると、ディアも気持ち良さそうに目を細めた。
「冬至祭りに向けて、料理のレパートリーも増やしていきたいところですね……」
ステラがエプロンを付けて料理を始める。
しゅぱぱぱぱっと相変わらず凄い手際だな。
包丁捌きが目に見えない。
「わふー。母上、当てはあるんだぞ?」
「『ふわふわ真紅』という料理がオススメなのですが、うーん……」
「ウゴ、どういう料理なの?」
俺も初めて聞いたな。いや、エルフ料理に詳しいわけではないのだが。
大陸中央とエルフの住む東方は長らく交流が少なかった。
なので食文化などは今も驚くほど違う。
まぁ、エルフ料理は中華みたいで俺は大好きなのだが。
「大豆とにがりから作った、豆腐というモノをですね」
……ん? この世界に豆腐があるのか?
いや、前世の豆腐と同じモノとは限らないか。
「油とできる限りの香辛料、何種類かの発酵調味料で煮込むんです」
それって――麻婆豆腐か!?
お読みいただき、ありがとうございます。







