835.異変……?
その頃、ディアとマルコシアス、ウッドは村の北を歩いていた。
ウッドの手にはバットとボールが握られている。
第二広場でキャッチボールをした帰りなのだ。
「ぴっぴよー。風がきもちいいぴよー」
「わふー。爽やかなんだぞー」
マルコシアスはちまっとした子犬姿である。
ディアはそんなマルコシアスの背中を撫でながら歩いていた。
「マルちゃんはつやつやぴよねー」
「ありがとなんだぞ。我が主もふわもっこなんだぞ」
「ウゴ、ふたりとも可愛いよ!」
「ぴよよー、嬉しいぴよねー」
太陽は西に傾きつつある。ひんやりとした秋風が気持ちいい。
三人は大樹の塔に近づいてきた。
今日も今日とて、土風呂にはたくさんの人が来ている。
「にゃーん。お散歩のお帰りにゃん?」
ブラウンが三人に声を掛けてきた。
どうやら土風呂の帰りらしく、首にタオルを巻いている。
「ぴよ! そうぴよ!」
「運動は大切なんだぞ!」
「いいにゃん、大切なことにゃん!」
三人は村中で愛されている。仲の良い三人を見るだけで、誰もが癒されるのだ。
「ウゴ、ブラウンは土風呂の帰り?」
「ですにゃん。毛のお手入れは大事ですにゃん!」
土風呂はニャフ族にも広まりつつある。
その中でもブラウンは土風呂をかなり気に入っていた。
四人は居住区画へ一緒に歩いていく。その途中で――。
「ぴよ? あれは……」
ディアは首を傾げた。視界の隅、大樹の家と家の間に珍しい人がいたのだ。
「んーん……」
テテトカが目を閉じながら、首まで埋まっている。
ドリアードは普段、大樹の塔の近くでしか埋まらない。
「こんなところで、どうかしたにゃん?」
「ウゴ、珍しい……」
こんな居住区で、しかも一人で埋まっているのは非常に珍しかった。
「ご機嫌うるわしゅー。うーん……」
「唸っているんだぞ、何かあるんだぞ?」
マルコシアスがふんふんとテテトカの埋まっている周囲の匂いを嗅いだ。
「土の感じが、ちょっと変なんですよねー」
「にゃん? そうなのにゃん?」
「雰囲気がすこーし変わった、というか」
マルコシアスがテテトカの周囲を回る中、テテトカが目を開ける。
「本当にちょっとだけなんですけどー」
「わふ。特に変わった匂いはないんだぞ」
「ウゴ……父さんに伝える?」
ウッドは即座にそう提案した。
テテトカはマイペースだが、その直感や知識はエルトにも重宝されている。
しかしテテトカは頭だけを横に振った。
「何が変わったのか、もう少し確かめてからにしますー」
「ぴよ! 無茶はいけないぴよよ」
「そこは大丈夫ですよー」
「ダメぴよよ!」
ディアがずいっと身を乗り出した。
「そうやってみんな、しにそーになるぴよね……!」
……。
何か変な経験をディアは積んでいた。
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