833.山車を出そう
それからレイアとともに冬至祭の概要をまとめていった。
ザンザスの冬至祭では数千人が来訪し、大きなお金が動くらしい。
冬至祭は冬の終わりを告げる節目だ。一年の締めになる祭りだからな。
次の大きな祭りは初夏の迎春祭になる。
地域によっては一年で最も大きな祭りが冬至祭になるほど。
ザンザスも気合いを入れるわけだ。
「今年はステラ様の大復活記念祭、そういう案もありますが」
「不許可です」
ステラはばっさり切って捨てた。
「ステラ様の使ったとされる、数々の伝説の武器も展示しますのに……」
「ほう、そんなものがあるのか?」
本でいくつか見た気がしたな。
ステラのパワーに耐え切れず、ぽっきり折れた剣とか……。
「……あの大半は、わたしが触れたことのない代物ですが」
「偽物じゃないか」
「伝説、あくまで伝説ですので……!」
レイアがこほんと咳払いをした。
どうやら、やましいところがあるらしい。
「であれば、コンセプトは例年通りですね。ぴよちゃん祭りです」
「ぜひ協力します」
ステラの変わり身が速過ぎる。まぁ、もうステラもレイアには遠慮してないからな。
俺は前に読んだ本を思い出していた。
「正式には『封印祭』という名前だろう?」
「その通りです。元々は世界十大ダンジョンの脅威を忘れないためのお祭りでした」
「なるほど、それでぴよちゃんが……」
「コカトリスはザンザスのダンジョンで、最強の存在だからな」
恐れる対象をあえて祭る行事は、前世の日本でもよくある。
鬼とかなまはげとか。
ドラゴンなんかも、よく紋章や強大さのモチーフとして扱われているしな。
「祭りでは巨大な山車が街中を練り歩きます。その対象に、ヒールベリーの村も含めればと」
「いいじゃないか、観光客も来てくれそうだな」
ふと、前世のお祭りの知識が頭をよぎった。
どんどこどん……。盛大な神輿が街中を疾走する風景だ。
「それぞれのギルドが、腕によりをかけて山車を用意するのです」
「それでは……超巨大なぴよちゃんも!」
「もちろん、街で一番大きい山車になります! 天まで届く、ビッグぴよちゃんです!」
まぁ、そうだろうな……。
「それで……エルト様も山車をどうでしょうか?」
「山車か? 巨大な台車に色々飾りつけをするんだよな」
「ええ、このザンザスの山車を見に来る観光客は大勢いますので」
大きくて華やかな建造物自体、この世界では珍しい。
まさに格好の娯楽なのだろう。
「この村でも山車は作れるのか?」
「規模にもよりますが、全く問題はないかと」
ふむ……この村でも作れるなら、いい宣伝にもなるだろう。
「わかった。山車を作って、参加する方向で行こう」
「ありがとうございます……! 資料は後で持ってきますね!」
話し合いは終わり、レイアは部屋を出てザンザスへと戻っていった。
ステラもぴよちゃん祭りでテンションが上がっているようだ。
「ぜひ盛り上げたいですね、エルト様」
「そうだな……。村の力を結集して、人を呼び込むいい機会だ。豪勢な山車を作ろうか」
「ああ、ぴよちゃんの姿が……!」
すでにステラの瞳には巨大なぴよちゃんの山車が思い浮かんでいるようだった。
「大きなコカトリスは……そんなにいいのか?」
レイアにしても、やけにコカトリスの大きさを強調していた気がする。
俺は特に、コカトリスのサイズに思い入れはないのだが。
「ええ、ぴよちゃんは大きいほど良いのです! ディアもどーんと大きくなって欲しいですよね」
「お、おう……」
どうやらコカトリスのサイズについては、感覚の違いがあるようだ。
ディアもどーんか……。覚えておこう……。
お読みいただき、ありがとうございます。







