831.書状にいわく
俺はレイアから手紙の入った封筒を受け取った。
香草を練りこみ、金粉で飾った格式高い手紙だ。すでに封は開けられていた。
当然か。封筒の宛先はザンザスで、俺じゃないし。
「ステラの末裔……か」
俺はレイアの言葉を繰り返した。
「今は七つの国の王家がステラの末裔を名乗っているんだったな」
「そうですね。すべて東方の小国ですけれども」
言葉にすると、とんでもない話だが……。
しかしステラからそういう話は聞いたことがない。
ステラは歴史の偉人なので、勝手に名乗られているのだろうが。
この件については、ステラとも話をしなければならない。
「ステラはもうすぐ来るはずだ――」
そこでタイミング良く扉がノックされ、ステラが入ってきた。
「遅れました。エルト様、レイア」
「いや、大丈夫だ。ちょうどステラの件で書状が来ていたんだが……」
俺は東方の国からの書状、末裔についてステラに説明した。
「ふぇぇ……全然、知りません。末裔なんて一人もいません」
「そ、そうか」
「やはりそうでしたか……ふむふむ」
レイアもうんうん頷いている。
頭の上のぴよ帽子も揺れていた。
「他の誰かと取り違えているか、詐称ですね」
ステラがほんのわずかに眉を寄せている。
俺にはわかるが……かなり不愉快になっているな。
「ザンザスの記録でも、そうしたモノはありませんでしたし」
「箔をつけたかったんだろう、多分」
俺は前世の知識から、これは侍の源氏みたいなモノだと認識していた。
本当に源氏の血筋でなくても、そう名乗ることが大切なのだ。
ステラの名前は東方の諸国ではそれほど価値があるのだろう。
「気持ちはわからなくもないですが……」
いつの間にかステラの眉が元に戻っていた。
強くこだわる性格じゃないからな、ステラも。
「それで、手紙には……なんと書いてありました?」
「東のエストーナ王家から、ザンザスの議会への問い合わせですね。冬至の祭りに立ち寄りたい、と」
冬至祭は1か月半後だ。とはいえ、かなりの距離がある。
何かのついでかもしれないが。
「同時にステラ様にもお会いしたい、と」
「えっ……嫌です」
おお、珍しくはっきり断ったな。
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