817.一斉攻撃
距離的には……【樹王の弓】もなんとか届く。
コカトリスが押し込んでくれているおかげだ。
「狼煙を上げてくれ!」
「了解~!」
ナナが筒の紐をぐっと引っ張る。
ポンッと軽い音とともに緑色の煙が上がった。
すぐにステラが腕を振り回しているのがわかる。
どうやら伝わったようだな。
俺は右腕に魔力を集中させる。
「ぴよー!」(えいやー!)
コカトリスの連続タックルでブルーヒドラが揺らめく。
充分すぎるほど時間を稼いでくれた。
核がある胴体も完全に【樹王の弓】の射程内だ。
しかもブルーヒドラの注意は完全にコカトリスに向いていた。
「ぴよっぴよー!」(こっちだー!)
地下コカトリスの目がぺかーっと光る。
かなりまぶしい。
「ギイィィィーー……!」
ブルーヒドラは地下コカトリスに首を向ける。
その隙にコカトリス姉妹が水柱に飛び込んでいく。うまい連携だった。
「ウゴ……必ず当てる!」
ウッドが雷神球の瓶を掲げ、投げる体勢に入る。
力強い構え……!
これこそ野ボール練習の成果が現れていた。
「僕もやるよー!」
着ぐるみのナナも気合を入れ、白い鞭に魔力を送り込んでいる。
大気が白熱し、寒気のする魔力が鞭から放たれた。
「十……十五……」
ごくり。緊張してきた……。
ステラが駆け出す。肩口に雷神球の光が見えた。
彼女も投げる体勢に入っているようだ。
二十……二十五……。
足元から緑のツタが生まれ、その先から樹皮の弓と矢が出来上がる。
同時にコカトリスがさーっとブルーヒドラから離れた。
よし! ベストなタイミングだ。
「今だッ!」
俺は一気に魔力を解き放ち【樹王の弓】を発動させた。
矢が魔力をまとい、どうっと緑の魔力が炸裂する。
ナナも鞭を振るい、ブルーヒドラの胴を薙ぎ払った。
「ウゴー!」
ウッドが大地を踏み込み、雷神球を投げる。
ステラの体も黄金に輝き、鮮烈な光が放たれていた。
まさに一斉攻撃――四つの攻撃は同時にブルーヒドラにぶち当たった。
猛烈な魔力の爆風が巻き起こり、視界が塗りつぶされる。
これまで体験したことのない、人生最大の爆発だ。
「ギャオオオーーー!!」
まばたきの一瞬、視界が戻った。
ブルーヒドラの絶叫が大気を震わせ、綺麗に胴体の大部分がなくなっている。
「よし……!」
思わず小さくガッツポーズする。
確実に核は捉えたはず……!
まもなくブルーヒドラの首がゆっくりと形を失い、水に戻る。
そのまま雨と一緒に湖に溶けていく。
「あっ、核を回収しないと!」
「ウゴ、そうだ!」
ぱたり。ナナがうつ伏せに崩れ落ちた。
「……僕はしばらく役に立たないので」
どうやら魔力切れらしい。
「きゅいー」(おつかれー)
アルミラージが集まって、着ぐるみのナナを前脚で撫でる。
労わっているっぽい。
湖を見ると、ステラがこっちに向けて走ってきている。
「向こうも無事なようだな。まずは合流しようか」
「ウゴ、わかったー!」
あとでララトマとカイにもお礼をしないとな。
俺もどっと疲れたが、とりあえず一安心した。
村の危機は去ったのだ。
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