815.担いでゴー!
ナナがステラの背で驚く。
「やった!?」
「ダメージはありましたが、まだです!」
同時に核を攻撃しない限り、ブルーヒドラは止まらない。
このダメージも即座に回復してしまうだろう。
だが、少しの足止めにはなるはずだ。
そしてステラは時間稼ぎの意味をよく知っている。
野ボールでもファールを重ねれば投手は消耗する。
その消耗は無駄にはならない。
「ふっ……今のはストライクをファールにってところですね」
「……その解釈でいいの?」
「ええ、エルト様もいい位置に来ています……!」
エルト達も水柱にかなり接近している。
あともう少しで一斉攻撃できるはずだった。
「ぴよよー!」(それー!)
ステラの後方からさらにコカトリスが射出される。
どうやら残った2体のうち1体がまたも突撃したらしい。
「ぴよちゃん……!」
コカトリスの突撃にステラは胸を熱くさせる。
全員ができることをやる。まさにその精神が必要なのだ。
そこでステラははっとする。そうだ、この手があった。
「ナナ、さっき空を飛んでいましたよね?」
「えっ、ちょっと。まさか」
「体当たりでも時間稼ぎにはなると思うんです」
「いや、それは」
「エルト様の魔法、わたしとウッドの雷神球。あとちょっとでベストな位置になるはずです」
ステラの言っている間にも、コカトリスは水柱に突撃していた。
お互いに投げ合って体当たりをしているのである。
ナナは一瞬悩んだが、Sランク冒険者の意地がある。
コカトリスが立ち向かうのに、コカトリス着ぐるみのナナが立ちすくむわけにはいかなかった。
「……わかった、投げて」
「ありがとうございます!」
ステラがぐっと両腕でナナを軽々と持ち上げる。
湖を走ったまま……。
コカトリスが突撃したブルーヒドラの首が再生していく。
やはり再生力は桁違いだ。
攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
「いちにのさんで投げますよ! いち、にのさん!」
「ちょっ、はや――」
ナナがステラにぶん投げられる。
流星のごとく、ナナは一筋の光になった。
投げるのは正確、勢いも申し分ない。
だがステラはつぶやく。
「失敗しました……」
ナナは超高速で水柱に突っこむ――そして貫通した。
勢いがありすぎて、水柱の向こうへ飛んで行ったのだ。
ステラとしては、もうちょっとソフトに着地してもらうつもりだった。
だがこのままだと、ナナが対岸に突き刺さるのは確実である。
ステラの額を一筋の汗が伝った。
しかし即座に気を取り直す。後悔している暇はない。
「まぁ、ちょうどエルト様のいる位置の近くですから……ヨシ、ということで!」
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