808.ナナふらつく
「ナナぴよ、めっちゃ降られてるぴよ」
「ええ、運がないというか……」
雨をどうこうなんてできないからな。
俺たちには眺めることしかできない。
「くむくむ、雨はこっちにも来るんだぞ」
「むっ、それはまずいな」
俺はさらに植物魔法を使って屋根の葉を増やす。
芝生の上はすぐさま数枚の大きな葉に覆われた。
ぽつ、ぽつ……。
葉に当たる雨音が増えていく。
「これは本格的に降りそうか……」
「ぴよ。でもこーいうのも新鮮ぴよね」
「ウゴ! 雨の湖、悪くない!」
「雨の匂いは我も嫌いじゃないんだぞ」
ふむ、子どもたちにとっては雨も経験のうちか。
だんだんとこちら側でも雨音が強くなっていく。
思えばこの辺りは雨もそれほど降らないし、長雨もないからな。
まぁ、雨が降っている時は湖へも来ないし。
「……エルト様、わたしたちは大丈夫ですが――」
ステラが俺の肩をちょんちょんつっつく。
「ナナが空でふらふらしているように見えます」
さきほどと比べ、ナナは俺たちに接近しているように見える。
だがステラの言う通り、飛んでいるナナの軸はふらついていた。
……蚊取り線香の周囲を回る蚊みたいな。
「前もふらふらはしていたと思うが……」
「雨が降り出してから、さらにふらついてますね」
マジか……。
ナナはさらにこちらに近付いてくるが――揺れは振り子のように大きくなっている。
「わふー。やばやばなんだぞ……」
「雨も強くなっていますです!」
ララトマが上に設けられた葉に目をやる。
確かに今や、雨音はひっきりなしに強く葉を叩いていた。
もちろん湖にも雨は激しく降り注いでいる。
ナナは右へふらふら。左へふらふら。
空飛ぶものがあんなに揺れていいのか?
「死ぬぴよ……!」
ディアがくわっと身を乗り出す。
「ナナぴよは丈夫ぴよ。でも水にぽっちゃんしたら――」
ディアが雨に翻弄されるナナをぴっと指す。
「あの高さはやば死ぬぴよ!」
「ヴァンパイアの着ぐるみは万能ですから、そう危険はないはずですが」
「あの着ぐるみだからな」
実際、海にも潜れる。
ただディアの言う通り、あの高さから水面に落下して無事かどうか……?
高い位置から水面へ落下することは、コンクリ道路に落ちるのと同じだったか。
「……急落下しない限りは大丈夫でしょう」
「うむ……」
と、そんな風にナナを見守っていたのだが。
ボンッ!
ナナの背中が爆発した。
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