807.雨
「きゅー」(ねむむー)
少しの間、俺は野菜を生み出しながらのんびりした。
やがてアルミラージもお散歩とご飯で眠くなったのか、芝生に寝転がる。
目つきもトロンとしているな。
俺がそんな感じでうとうとし始めた、その時。
ディアがふと撫でる羽を止めて、空を見上げる。
「ぴよ。あれはなにぴよ……?」
ディアの視線の先を追うと、湖の上空に何かがいた。
なんだか大きい……? 鳥とは思えないサイズだ。
テテトカが目を細め、見定めようとする。
「鳥さんですー?」
「いや、もっと大きいような……」
しかも黄色いような? 魔物……いや、かすかに音がする。
パラパララ……。この世界では珍しいプロペラ音だ。
ちょっと前に聞いた気がするが――そこで俺ははっとした。
五感の優れるステラが答える。
「……どうやらナナが魔道具で飛んでいるようですね」
ステラの正確な補足で俺は思い出していた。
「あの飛行用の魔道具か……」
多分ナナやステラでないと大怪我確実、試作の魔道具だ。
謎の飛行物体は徐々にこちらへ接近してくるようだ。
高さは三十メートルくらいか。高層ビル並みの高度で飛んでいる。
「アレは着地に難があったが……」
多分、空を飛ぶうえで一番重要そうな点だがナナの着ぐるみは丈夫だ。
前もあんな着地だったが、無傷だったわけだし。
「しかしヴァンパイアは水が苦手じゃないのか……?」
「着陸時に他のみんなへ迷惑をかけたくないから、ここにしたのかも……」
それで人がおらず苦手な水のあるところにしたのか。
涙ぐましい配慮だ。
「あっ、雨ぴよ」
ディアがぶ厚い雲を見た。
ぴちょん……。
俺も小さな雨粒を額に感じた。
「本当だ、ついに降ってきたか」
しゅっと手をかざし、俺は大きな雨除け用の葉を生み出す。
蓮の葉みたいな感じで、傘代わりだ。
「ウゴ、まだぽつぽつだね」
「ああ、大したことはないが……」
マルコシアスがくむくむと鼻を動かす。
「……湖はめっちゃ雨が強いんだぞ」
「えっ?」
マルコシアスに言われて湖を見た。
ざぁーー……!
湖の対岸から真ん中にかけて、なんと強烈な雨が降っていた。
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