804.ドリアードちから
「ドリアードちゃんにどういう影響が出るか、確認する必要がありますわ」
ちゃぷちゃぷ。イスカミナがお湯に手を入れる。
「お湯は素晴らしいもぐね……!」
「ありがとうございますわ」
「これならイけるもぐ!」
イスカミナが身体を小刻みに動かしながら、粉を木の桶に入れていく。
ぱらぱら、ぱらぱらぱら……。
「もっぐもぐー♪」
真っ白な炭酸ナトリウム、それに硫黄の粒。
イスカミナはそれらを丁寧につまみ、顏の高さからさらさらーと振りかける。
ジェシカがその様子にちょっと疑問を呈する。
「その……粉を上から落とすのは重要なんですの?」
「スプーンで入れるのは、美しくないもぐ」
絶対にスプーンのほうが確実な気はしたが、それではダメらしい。
アナリアがうんうんと頷く。
「イスカミナはセンス派ですからね」
「そういう問題ですの……?」
イスカミナがふたたび粉をつまみ、桶に入れていく。
さらさらさらー。
「心配はいりません。イスカミナは鉱物系の調合はめちゃウマですから」
「手つき、慣れてますものねー」
「もぐ。学費を稼ぐために磨いたもぐ」
ちゃぷちゃぷ。さらに数回、粉を投入する。
最後に柑橘類の皮を乾燥させた粉を混ぜれば、出来上がりだ。
「こんなとこもぐね……!」
淡い黄色のお湯を眺めながら、イスカミナが胸を張る。
完成した湯からはわずかな硫黄と柑橘類の刺激臭がする。
「試してみるもぐ」
「じゃあー、ちょっと腕を入れましょー」
テテトカが先陣を切って、右腕を桶に入れようとする。
「ごくり……ですわ」
ちゃぷん。テテトカが手をお湯に入れる。
「ふむー……?」
「大丈夫ですわ? ピリッとしそうなお湯の質ですけど」
「ピリッとはしますけどー。これはいいですねー……」
ちゃぷ、ちゃぷちゃぷ。テテトカは両腕を桶に入れ、お湯に遊ばせる。
「でもララトマのグループにはまだ早そうですねー」
「そうなんですか?」
「ドリアード力が足りないですー」
「ふむふむ……」
アナリアはスキルか何かのレベルのことだろうと思った。
だが、これはうっかり口には出せない。領地の機密にもなり得るからだ。
「それで……ララトマには、なにか悪いことが起きるのですわ?」
「ドリアード力がうまく通せないくらいで、害はないと思いますがー」
そこでイスカミナがちょこんと首を傾げる。
「ドリアード力ってなにもぐ?」
「大地のぱわー的なやつですー」
「大地のぱわーってなにもぐ?」
「ドリアード力みたいな感じですー」
ほむほむ……。
イスカミナがテテトカの言葉を反芻する。
「…………もぐ。把握したもぐ!」
イスカミナは理解した。
つまりドリアード力は自分が粉を上からさらさら振りかけるのと同じであろうと。
「そうしたら、このお湯はどうしますわ?」
テテトカがマイじょうろに視線を向ける。
「ぼくたちの中で、希望者にじゃばーしましょうかー」
「無茶はしないでくださいね!」
「大丈夫ですー、なんだかこのお湯で、元気が注入されましたからー」
「即効性はないはずもぐ」
「そーなんですー?」
テテトカがお湯から両腕を出し、タオルでふきふきする。
「このお湯ですぐに効果が出たら、ヤバもぐよ」
「まぁ……イスカミナのオリジナルブレンド入浴剤が入っているだけですからね……」
「なんだかコーヒーみたいですわ」
テテトカがごそごそとバッグからヒマワリの種を取り出す。
コカトリスのおやつ兼油の生産で使う種だ。
「これをー、ぎゅっとしてー」
テテトカが右の手のひらに種を乗せ、力を込めて握りこむ。
「むむむ~……!」
ほんのり緑の魔力がテテトカの右の拳に集中する。
「これは……魔力ですわ!」
「えっ!? 本当ですか!?」
予期しない光景にアナリアが身を乗り出した。
「よいしょっとー」
テテトカがぱっと握りをやめて、種を見せる。
「ちょっとドリアード力がアップしましたねー」
その小さな種は、土もなしに芽が出ているのであった。
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