786.アルミラージ
俺はカイから書状を受け取り、ぱっと読む。
『これら三名、金髪のシープ族のカイ率いる黒書の騎士は王国の命を遂行中。
剣王の祝福を望むなら、正当な対価と引き換えに便宜を図ることを望む。
黒書騎士団と宮廷占星団より』
ここで言う剣王とは、王国を打ち立てた建国王のことだな。
婉曲に権威を伝える決まり文句である。
紙質も書式も印も、全て不審な点はない。
つまり本物と判断するしかない。
この書状に異を唱えることは、王国との無用な争いを生むだろう。
良かった、これなら受け入れても問題ない……はずだ。
「承知した。宿泊と食事に便宜を図ろう」
「ありがたき幸せです……!」
後ろの騎士二人もお辞儀をする。
「「寛大なる領主様に敬意を!」」
ふむ、徹底して友好的な姿勢だな。
なおさら安心だ。
「ところで、気になっていたんだが……」
「はい? なんでしょうか?」
「後ろの大きなウサギは、君達が連れてきたのか?」
俺の視線の先には、角の生えた大きく真っ白なウサギがいる。
大きさはポニーほどで、荷物と旗が括り付けられていた。
「「「きゅいっ!」」」
かわいい。
……いや、違う。あのウサギは魔物だ。子馬ほどのウサギが自然にいるわけがない。
アルミラージという立派な魔物である。
とはいえ草食性で、刺激しなければ危険は少ない魔物のはずだが。
前世のゲームにも出てきたし、こちらでも魔物図鑑で見た。
「こ、この子達は……っ、ちょっと人見知りしますが、安全な子なので!」
「きゅいー」
もしゃもしゃ。アルミラージは道端の草を食べていた。
……うさぎだ。
「アルミラージに乗って来たのか……?」
「は、はい……。私の家系はアルミラージとの繋がりが深くてですね……」
世界には魔物を乗りこなしている貴族もいるそうだが、初めて見たな。
ここにいるコカトリスは……まぁ、色々と例外ではある。
騎乗動物として魔物を使役するのはザンザスでもしていない。
「馬より速くタフなので、伝令を仰せつかることが多いのです」
カイは一瞬、疲れた風を見せた。
いいようにこき使われているんだろうな。なんとなく察した。
「なるほど……」
「普通の領主様はアルミラージを多少なりとも警戒しますが……エルト様は動じられませんね」
「凶悪な魔物ではないとわかっているからな」
アルミラージの脅威度はEランク。軽く武装した成人並みだ。
だが、実際Eランクの魔物は人間大の野生動物とあまり変わらない。
例えるなら巨大な狼くらいだろうか。ぶっちゃけコカトリスのほうがよほど強い。
「……見るからに脅威はなさそうだし」
「きゅいー?」
つぶらな瞳のアルミラージが首を傾げる。目を見張るほどののモコモコ具合だ。
前世のゲームの中でも、アルミラージはテイム可能な魔物だった。
外見が可愛らしいのでかなりの人気があったな。
俺はゆっくりとカイ達に近付く。断じてアルミラージを触ってみたいわけじゃない。
お読みいただき、ありがとうございます。







