785.騎士カイ
この村で最大の戦力はステラだからな。何かあったときには頼ることになるだろう。
そうならないことを祈っているが。
ナールと別れ、俺とアラサー冒険者は一緒に村の入口へ急いで向かう。
「ところで……騎士団の紋章は見たか?」
騎士団は識別のため、旗や鎧、盾に紋章を入れているはず。
この国では確か三十個ほどの騎士団が存在する。
有名な騎士団なら俺も知っているかも……。
「黒表紙の本の紋章でしたぜ!」
「それは――黒書騎士団だな。王国六大騎士団のうちのひとつだ」
三十個ある騎士団の中でも伝統と歴史があり、強者揃いとされるのが六大騎士団だ。
「ヤバいんですかい……?」
心配そうなアラサー冒険者に俺は首を振る。黒書騎士団については、ちょっと知っている。
「黒書騎士団にはナーガシュ家が多額の援助をしている。そういう意味では友好的なはずだ」
実家で何回か、話は聞いたことがある。しかし、とりあえず急行するしかない。
村の入口にはすでに人が集まっている。その人の集まりの上から風に揺られる旗が見えた。
白地に黒い背表紙の本の紋章、所々に金と銀の糸が使われている。
「確かに黒書騎士団だな……!」
俺が走り寄ると人だかりがさっと割れた。
人だかりの中央に三人がいる。彼女たちが黒書騎士団の騎士か。
「……あなたがここの領主、エルト・ナーガシュ様でしょうか?」
声を掛けてきたのは先頭にいる軽装の少女騎士だった。後ろに二人、騎士を連れている。
耳の上に小さな巻角、ふわふわの金髪。羊の獣人であるシープ族か。
ニャフ族と一緒くらいの背丈だが、彼女からは……かなりの魔力を感じる。
軽装鎧も良く磨き上げられ、布も高そうだ。
間違いなくそれなりの騎士だろう。だが、気後れしてはいけない。
「ああ、そうだが。俺の領地に何用だ?」
「大変失礼いたしました、私の名前はカイ・ストレイホーン。黒書騎士団の副団長を務めています」
優雅にカイがお辞儀する。眼光は思ったよりも柔らかく、敵意は感じられないな。
それにしてもストレイホーンか。王国五大貴族の一角だ。
でも主要な人物にカイ、という名はないはず。彼女は分家出身だろう。
「事前連絡もなしに訪れたのはご容赦を。急用により、領内の通行と休息の許可を賜りたく」
そう言って、カイはすっと懐から書状を取り出した。
封筒と印の質から、それなりの地位の者が用意したのだと一目でわかる。
まぁ、騎士団の紋章の偽造は重罪なので彼女たちを疑う訳ではないのだが。
問題はここを訪れた用件のほうだ。
「拝見しよう」
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