775.対抗手段
なんだ? 頭が、記憶が揺さぶられる……。
俺は想わず額に手を当てた。
「うっ……」
「ぴよ! どうかしたぴよ?」
「……大丈夫だ」
きっかけはブルーヒドラという名称か。
関係する前世の記憶が、ほんのちょっとだけ戻った。
ブルーヒドラの性質。そして弱点。
ブルーヒドラは水でできているので、物理攻撃が通じにくい。
他の魔法攻撃も効果は薄い。
ただ、ひとつだけ弱点がある。
「雷の魔法があれば、効果的に戦えそうだが……」
そうだ、ブルーヒドラに似た敵はゲームにも出てきた。
同じように核があり、数十個の首で攻撃してくる。
雷属性がないと攻略不能クラスだったな。
あのブルーヒドラがそこまでの力を持っているかどうかだが。
「雷の魔法ですか……。申し訳ありません、わたしには使えません」
「ウゴ、使える人って、この村にいたっけ?」
俺もすぐには思い至らないな。
というより、攻撃魔法の使い手自体があんまりいない。
「攻撃魔法の使い手自体も珍しいみたいだからな」
うーむ、雷……何かあったような気がするんだが。
こういうことはナールとかに相談するか。
明日、その辺を詰めてみよう。
♢
翌日。
冒険者ギルドでナールに話をしてみる。
ちなみにアナリアも同席だ。
「雷の魔法、ですか……」
「にゃー。かなりレアですにゃ……」
少し考えていたアナリアが、
「残念ですが住人名簿で見た記憶がありませんし、ザンザスの冒険者にもいないはずです」
「うーむ、やはりダメか……」
あとでレイアに問い合わせはしてみるが期待薄だな。
俺も雷の下級魔法なら使えるが、あまり役には立たないだろう。
魔法はその適性がないと真価を発揮できない。
とはいえ、雷の魔力攻撃であれば魔法でなくてもいい。
「……そう言えば、ザンザスでは雷鉱石が手に入るんだったか?」
「にゃ、ステラが攻略した第2層で手に入りますにゃ」
「雷精霊の住処ですね。雷鉱石は電撃ポーションの材料になりますが……」
アナリアが言い淀む理由はわかる。電撃ポーションは前に大量に作った発火ポーションと同じく、属性攻撃を可能にするアイテムだ。
しかし攻撃力そのものは高くない。前世のゲームでも、この世界でもこの点は同じだ。
だが、抜け道はある。
「純度を高めれば、攻撃力を高めることも可能だが……」
「そうなのですかっ!?」
アナリアが食いついてくる。さすがポーション作りのために引っ越しする薬師だ。
「初めて聞きましたにゃ!」
「これはナーガシュ家で秘匿された知識だから、無理もない」
これはでまかせだ。出所は俺の前世の知識である。
「さすが現王家より歴史あると言われる、ナーガシュ家……!」
「雷撃ポーションは純度を高めると固体になるんだが、手間もかかる上に材料がな……」
「固体ですにゃ?」
「ああ、雷神球という名前に変化する」
製作には最上品質の雷鉱石、その他もろもろが必要だ。
ゲーム中では10倍の材料費で数倍の攻撃力になった。つまり効率は良くないのだが。
だが恐らく雷神球なら、ブルーヒドラの首を一撃でダウンさせられる。
紙を手に取り、さらさらっと必要な材料を書き込んでいく。
俺がメモをした内容を見て、アナリアが唸った。
「これは……サンダークラウドの結晶、パープルタイガーの骨、電光サソリの毒……」
「にゃー、どれもレアな素材ですにゃ!」
ゲームでは売買で手に入るが、この世界ではやはり貴重か。
だがアナリアはふむふむと何度も頷いている。
「ザンザスの冒険者ギルドと薬師ギルド、それといくつかの商会を巡れば材料は揃うかも」
「アナリア、それは本当か?」
「ただ、これほどの素材です。揃っても数個作れるかどうか」
おお、しかし数個は作れるかもなのか。
それなら多少、手間ではあるが……。
「備えはあったほうがいいな」
「モノはあちしも知っていますにゃ。商会なら商人の繋がりがありますにゃ」
「薬師ギルドの分は、私が取りに行けば――」
俺達は顔を見合わせる。
「……よし、材料の入手と作成をお願いできるか?」
「はい!」
「ラジャーですにゃー!」
ふたりは勢い良く返事をする。
こうしてアナリアとナールはザンザスへと材料を取りに行くことになった。
やはり人には聞いてみるものだな……!
お読みいただき、ありがとうございます。







