772.核の構造
安全性はナナのお墨付きだ。
「専門家として保証するよ。魔力がなくなったから大丈夫ー」
そのナナは着ぐるみごとステラに背負われている。
たまによく見る光景だ。
「いつもごめんねぇ……」
「いえいえ、全く大丈夫です。それよりあの核のことがわかるなんて……」
ステラの魔力は図抜けているが、魔道具の知識はない。
正確にはステラの眠っていた数百年の間に変わりすぎてしまったのだ。
確かに江戸時代の天才が現代に来ても、知能は良いとして知識は役立たない。
それでも順応しているステラが凄すぎるとも言うが……。
「この核には様々な術式が組み込まれてる。作った人は……超が付く天才かな」
「どのくらい凄いのにゃ?」
「悔しいけど僕より上だね。砂粒に論文を書き込んでいるようなものだもの」
ナナよりも高度な魔道具……。
いや、あのソリとかトンボとかは……。
彼女の魔道具はどうしてだか汎用品は高性能。
着ぐるみやぴよ帽子など。
なぜか1点物、自分で使うのは微妙な気がする。
イスカミナがふむふむと頷く。
「確かに普通の魔道具じゃないもっぐね」
そう、この世界には魔法具が生活に密着している。
冷蔵庫やお風呂、キッチンや照明器具にも。
しかし燃費は今一つのようで馬車も活躍しているが。
ヒールベリーの村だと生け簀と水道が一番高価な魔法具になるだろうか。
それと比べても、今のヒドラの首は考えられない性能なのは間違いない。
「これがまだ残っているんだろう?」
「ええ、そうです……。かつて、わたしはこの水のヒドラと戦いました。もうちょっと今の村に近いところでですが」
「もぐ! もしかして魔王討伐でもぐ?」
「本当に英雄譚の一部ですわね……!」
「にゃー……改めて感激ですにゃー……!」
向けられるキラキラした眼差しに、ステラの頬がちょっと赤くなる。
「そ、そうです。魔王の元に向かう道中、あの水のヒドラが立ち塞がってきました」
「警備役ということか」
「侵入者は見境なく襲う、そんな感じでした」
知性らしきものはなかったからな。
行動パターンは単純な気がした。
「機能停止に追い込んだのち、地下に紛れ込んで……あそこに流れ着いたのかな。過去の事なので推測ですけれど」
「そして残りがまだ地下にある、ということか……」
まさかそんな遺物が眠っているなんてな。
地下通路があるので、いまさらかもだが。
「もぐ。でも今の戦闘で波長は掴めたもぐ。もうちょっと素早く調べられますもぐ」
「それはありがたい。で、残りの核なんだが――」
あの五つが全部ではない、と。気がかりはそこだ。
「はい、わたしが戦った時は、ヒドラの首は全部で二十個ありました。残りは十五個です」
……ん? 今、なんて言った?
「とんでもない数のような気がしますわ」
「……それ、本当?」
「十五個もあるんですにゃ……?」
「やばもぐ」
「でも大丈夫ですよ! 前も勝ちましたから!」
ステラがきっぱりと断言する。
そこだけは救いだった。
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