769.魔王具
「魔王具……!?」
……ごめん、わからん。
本当に知らなかった。
それは他の皆も同じだったようで――。
「知らない言葉ですわっ」
「それはなんですにゃ!?」
「初めて聞く単語もぐ!」
皆、知らない。
ステラが続けて叫ぶ。
「えぇっ、知らないんですか……!?」
ナナだけはぬぬっと身を乗り出した。
「魔王具か……。あれが魔王具なのかい? それは本当?」
「そうです、ナナ! 解説してあげてください!」
「魔王具とは、異界からもたらされたという超絶の古代魔法具だ。僕の研究対象でもある!」
どーん。
もふっと羽を上げたナナ。
超絶の古代魔法具……。
つまりロストテクノロジー的なやつか。
ステラが俺の側に素早く移動してささやく。
ちょっと気まずそうだ。
「……わたしの思っている意味と違うのですが」
「多分、数百年で言葉の定義が変化したんだな……」
「うぅ……なんてことでしょう。ナナ、解説ありがとうございました!」
「あー、昔は違う意味だったんだー」
ナナはふむふむと頷いた。
誰かが悪いわけじゃない。不幸な行き違いだ。
ステラが涙を拭って体勢を整える。
「つまりアレは危険な魔法具です! 五つの水柱に、それぞれ小さな核があります!」
「なんだって……!?」
めちゃくちゃ分かりやすい単語になった。
「核は連鎖的に攻撃すれば、機能停止に追い込めます!」
やけに詳しいな。
この流れはもしかしなくても……。
「もしかして戦ったことがあるのか……?」
「はい、ふた――いえ、ひとりで倒しました!」
今、ふたりって言いそうになったな。言い直さなきゃいけない事情があったらしい。
いや、前にマルコシアスと一緒に魔王討伐したと言っていたか。
魔王具と魔王。
どう考えても関係している単語の雰囲気だ。
今誤魔化したのは多分、その部分だろう。
マルコシアスの正体にも関係するしな。
「それでどうすればいいのですわ!?」
「水柱の中央、根元部分を狙ってください! そこに核があります! ナールとイスカミナは退避を!」
「わ、わかったのにゃー!」
「はいもぐー!」
ふたりが走り出した瞬間、水柱に動きがあった。
それぞれの水柱の先端が震えてぐにゃりと形を変える。
現れたのは刺々しく凶悪なトカゲの頭だ。それが五つ、俺達を睨みつけている。
実際に見たことはないが、この姿はひとつの魔物を連想させる。
ヒドラだ。
これは水のヒドラとでもいうべき存在だった。
ヒドラの首がうねり、口から咆哮が放たれる。
「シャアアアアーーーッ!!」
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