766.堀の水
ナールとジェシカの報告で俺達は堀に向かうことにした。
メンバーはステラ、ナナ、ジェシカ、イスカミナ、案内役のナール、それに俺だ。
村の最強メンバーといっていい。
朝焼けの森の中を俺達は移動する。
「にゃー。早急な調査、ありがとうございますにゃ」
「気にしないでくれ。不穏なことは早めに処理しておきたいからな」
「そうですね……わたしもちょっと気になります」
地下通路がどうなっているのか。
全容は解明されていない。
もしかしたらどこか、魔物の巣窟と繋がっている可能性もあり得る。
「申し訳ありませんわ。私の水魔法で……」
ジェシカは責任を感じているようだ。頭のぴよ帽子もうなだれているように見える。
「いや、君のせいじゃない。たまたまのきっかけだ」
まもなく森を越えて堀に到着した。
ふむ……確かに見た目にはただの透明な水だな。
ステラが屈んで堀の水に手を入れ、耳をぴくぴくさせ魔力を探る。
「んんー。今は魔力はなさそうですね」
俺も同じように集中してみるが、何も感じ取れない。
堀に水を入れたのはかなり前だ。ジェシカの魔力も消えている。
「ちょっとお待ちくださいですわ」
ジェシカが魔力を集中させ、杖を振るうが――。
「あれ? ヒットしないですわ……」
「にゃー、反応なしにゃ? タイミングが悪いかもにゃ」
「常にキノコが来ているわけでもないのか……?」
水流や地下の状況によっては十分あり得る。
しかしモノがないのは少し困った。
「少し時間を空けてから試すか……?」
「それには及びませんよ」
着ぐるみのナナがお腹をごそごそしている。
「んしょ……。よいしょっと!」
ナナがポケットから引っ張り出してきたのは――携帯ゲーム機のような長方形の魔法具だ。
さらに片方の羽で、小さな金属製のトンボを持っている。
「たんさくトンボ君~」
てってれー。そんな効果音が鳴りそうだった。
「これは水陸両用の魔力探知機です。こっちの魔法具でたんさくトンボ君を操作して――」
ナナが長方形の魔法具をカチャカチャ弄り始める。ふむ、これは操作機か。
ボタンが持ち手(着ぐるみの羽)部分に付いているしな。
ますますゲーム機っぽい――むしろトンボを動かすならラジコンだ。
「便利そうですね……!」
「先代から引き継いだ、伝統ある魔法具さ。さて、これなら……」
ナナがリズミカルにボタンを押すと金属トンボの羽が動き出した。
「まさか飛ぶんですわ?」
「ふふふ、そのまさかだよ!」
金属トンボの羽が激しく動き、ナナから飛び立った。
でもこの金属トンボ、ふらふらしているな……。
俺は落ちかけている竹とんぼを思い出していた。
ステラも似たような感想を抱いているのだろう。
ナナを不安そうにじっと見つめていた。
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