765.地下の異変?
現在、ヒールベリーの村。
夕方、陽がオレンジ色に染まる時間。ジェシカはナールと一緒に森を移動していた。
「堀までもう少しですわね……」
夕焼けに樹木が照らされる。ふたりは森の奥へと急いでいた。
「夕方に申し訳ないですにゃー」
「構いませんわ。あの堀は私の魔法で水を満たしたんですもの」
以前、フラワーアーチャーとの決戦で、ジェシカは空堀に魔法で水を入れた。
以後、堀の水はそのままになっている。その堀に気になる報告があったのだ。
「夜に活動する冒険者の報告だと、堀の水から魔力が感じられるとのことですにゃ」
「妙ですわね。水を満たしたときは、そんなことありませんでしたわ」
「あちし達にはその辺がわかりづらくて……ですにゃ。でも天秤で水の魔力を調べると、わずかに反応がありますのにゃ」
「直してもらったやつですわね」
となると、気のせいとは言い切れない。要調査だ。
ナールがメモを読む。もうすぐ報告の地点に到着する。
「どうですかにゃ? もう何かありますにゃ?」
ジェシカが移動しながら意識を集中するが、何も感じ取れない。
「まだですわね……」
ふたりは森を抜けて堀に到着する。見た目には変わっていない。
堀の水は夕陽を浴びて美しく光っていた。
「むぅ、ここら辺は地下通路とも近いですわ。それと関係があるのかもですわ」
ジェシカは屈んで堀の水に触れてみる。
「んー、特に何もありませんわね」
魔法使いは魔力に敏感であるが、何の兆候もなかった。
「にゃー……。気のせいだったりするのですかにゃ?」
「でもナールの天秤にも反応があったのですわ? 気のせいと言うには……あれ?」
そこでジェシカはほんの小さな魔力を感じた。
湖で経験を重ねてきたジェシカだからこそ感知できるレベルだ。
「がおー」
ジェシカは手に持ったライオン頭の杖に魔力を集中させる。
すると堀の水が渦巻き、魔力の元を探り出していく。
「なにかあったのですにゃ……?」
「ええ、ありますわね。これは――」
ジェシカが立ち上がって杖を掲げる。ジェシカの杖が咆哮を上げた。
「がおおー!」
堀の水からいくつもの小さな、赤いモノが浮かび上がってきた。
「魔力の元はこれですわね」
ジェシカは水の流れを操り、赤いモノを足元に集める。
近くに集まったことで、ナールにもその赤いモノが何であるかわかった。
「にゃにゃ……! マジカルなキノコですにゃ!」
ジェシカはひょいと足元の、親指程度の黄色いキノコをつまむ。
ザンザスのダンジョンで育つキノコだ。食べると頭がパチパチする……。
気付けに使われるキノコだった。
「ですわね。未成熟な個体ですけれど……」
「本当に小さいにゃ。でも水の中から出てくるなんて妙だにゃ」
ナールの知識ではこうした魔法的キノコは水生ではなかった。
湿気を好むものの、水の中で育つことはない。
「可能性としては、この堀がどこかと繋がったかもですわ」
ジェシカが堀の水を見つめる。宵闇が森を覆いつつあった。
「にゃー……。それはありえますにゃ。この下には謎の通路がありますにゃ。トロッコは通したものの……まだ抜け道があったりするのですかにゃ」
「だとしたらちょっと問題かもですわね」
ナールとジェシカは顔を見合わせる。ふたりは全く同じことを考えていた。
早急に地下の調査を進めよう――と。
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