764.魔王城にて・後編
「もう大丈夫です」
「やっぱり、ステラはいい人なんだぞ!」
マルコシアスがわっと両腕を上げて――落とす。彼女はこの世の終わりのような顏をした。
「でも他にも虫がいるかもだぞ……」
「……一緒に寝てあげますから」
ステラはごく自然に答えた自分に驚く。
でも悪い気は全然しなかった。
マルコシアスがぴょんと跳ねて喜ぶ。
子犬みたいだ。
「本当なんだぞ!? ありがとなんだぞ!」
「大したことではありませんしね」
ステラは荷物の中から大きな布を取り出した。
翌日も魔王領を進まなければならない。もう休みを取った方がいい時間である。
「さ、寝ましょうか」
「ラジャーなんだぞ!」
マルコシアスの鎧がふにゃっとなり、つやつやの衣服へと変わった。
ステラが内心驚く。やはり只者ではない。
「我の鎧は状況に応じて変化するんだぞ」
「便利ですね……。肌触り、良さそうです」
ステラのなかで触りたい欲が出てくる。
もふもふ、ふわふわ……そういう可愛い生き物はここにはいなかった。
ここに来てからというもの、ザンザスのコカトリスが懐かしい。
そんなステラの視線にマルコシアスがドヤ顔で応じる。
「触ってもいいんだぞ」
「では、失礼して……。ほほう、これはなかなか……」
ステラは手を伸ばしてマルコシアスの服をつまんで、撫でる。
つやつやー。それは極上の触り心地であった。
「……いいですね」
彼女の性質は善だ――とステラは本能的に感じた。
同じことはマルコシアスもだった。ステラは良さそうな人だ。
ステラは微笑んだ。それを見てマルコシアスも微笑む。
なんだか久し振りに、微笑むことができたのだと。
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