743.つるつるソリ
「よいしょっと……」
ナナがポケットをごそごそして、大きなふたり乗りのソリを取り出した。ソリの両側には翼が付いているな。
ナナがどーんと崖のそばにソリを置く。
「じゃーん。つるつるソリ〜」
「おお、さすがナナ。ソリの用意があったのか」
「ぴよ! しかもおっきいぴよ!」
「ふたりで乗れそうなんだぞ」
「新作だよ。作ってきてよかった」
ん? 新作ということは……?
「テストはしたんだよな?」
「模型はうまくいったよ」
ナナがしゅっと手のひらサイズのソリをポケットから取り出した。色や形は今出した大きなソリによく似ている。
「ぴよ! つまり…………完璧ぴよね!」
「うんうん、理論的にも完璧だよ」
「わふ。ならどうしてレイアのソリは用意せず、コカトリスにくくりつけたんだぞ?」
ナナが模型を収納して答える。
「詳しい計算は省くけど、このソリの安全係数を満たすには搭乗者の外的防御力が不可欠なんだ」
「ぴよ……どーいうことぴよ?」
「……ステラやウッド、ぴよ着ぐるみ以外が乗るのは危険ということだ」
「わっふー。やばいんだぞ」
「やばくはないよ。でもコカトリスのほうが安全なのは確かだけど」
「大丈夫なのか、これ……?」
「大丈夫だって。運転は僕がするから。後ろの紐を持ってでーんと構えているだけでいいから」
まぁ、そこは信用するしかないか。この着ぐるみを着ていれば安全というのも本当だろう。
というわけで俺はソリの後ろに乗った。くぼみなどがかなりフィットしている。
「念のため、念のためね……」
ナナがポケットからロープを取り出し、俺とソリを固定する。
「ぴよ。念のためは大事ぴよ」
「そうだな……」
ナナはなんだかんだ言いながら、危険なものを運用したことはない。空を飛ぶアレでさえ、ぐえーと激突して無傷なのだから。
ということでナナも乗り込み、ついにソリが発進する。
「れっつごーぴよ!」
「わっふー。90度の角度を満喫なんだぞ!」
前に座ったナナがなんでもないように言い放つ。
「じゃあ、ちょっと加速するね」
「……え?」
声を出した瞬間、両翼に魔力が充填され――ソリがぎゅんと前進する。そしてそのままソリは崖下へと猛スピードで発射されていった。
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