738.見えなくても
「エルト様、前方に魔物がおります……!」
「ああ、だがよく見えないな……」
集中して前方を探ると、確かに魔物らしき気配がする。それは間違いない。
だが、舞い散る雪のせいで姿は見えなず、魔物の種類もわからない。
「やばめぴよ?」
「いや……それほどの魔力じゃない」
魔力の大小で判断するのは、賢いやり方ではない。キノコの魔物のように魔力が少なくとも毒を持っているケースがあるからだ。しかしとりあえずの脅威の見積もりには役立つ。
「ふむふむ……ウッド、硬めの種弾をくれますか?」
「ウゴ! はい、これ!」
ウッドが腕の先からバスケットボールほどの種子を生み出す。黒くてゴツゴツして、見るからに硬そうだ。
「ありがとうございます! では――とうっ!!」
ステラは受け取った黒い種子を振りかぶり、見事なフォームで吹雪の向こう側に投げる。やや高めのフォームだな。
黒い種子が豪速球となって――。
ゴッ!!
「わふ。なんか当たったんだぞ」
「よく当てたね……おや?」
臨戦態勢を取っていたナナが構えを解く。心なしか周囲の雪が弱まっているな。視界も開けたが……そこには黒い種子が突き刺さったひし形の精霊が浮かんでいた。
形自体はかなり細長く大きい。全高3メートルくらいだろうか?
しかしすでに黒い種子により、魔力は霧散し、崩れ始めていた。
「どうやら撃破できたようですね。やはりブリザードジェムでしたか……」
レイアが目を見開いて驚いている。
「見えてませんでしたし、音もしていませんでしたが……」
「ぴよ。全然わからなかったぴよ!」
「放射状に魔力が伝わってきてましたからね。あとはやや魔力の発生位置が高め……」
ブリザードジェムはここ以外にも寒冷地にはよく存在する魔物だな。
俺の知識は図鑑頼みだが――周囲を冷気で包みながら、突進してくるんだっけか。しかし能動的な攻撃はせず、脅威度も高くない。
「にしても図鑑だとだいたい人一人分くらいの大きさのはずだが……。これはずいぶん、大きかったな」
「ダンジョンの魔力を吸っていますからね、ここまで大きいのも珍しくありません」
なるほどな……。しかし動くのを見る前に、ブリザードジェムを撃破するとは。
ナナも感心している。
「放射状ね、なるほど覚えておこうっと」
「それほど大きな差ではありませんが、慣れれば感じ取れるかもです」
ちなみに俺はそこまでわからなかった。
ステラほどの経験(世界トップレベル)があれば、できるようになるのだろうか?
ちなみにコカトリスたちは……。
「ぴよぴ……?」(どう思います……?)
「ぴっぴよ〜……」(これ以上飲んだらお腹たぷたぷになっちゃうよ〜……)
お読みいただき、ありがとうございます。







