737.雪原を進む
「食べてるぴよね」
「でも味はどうなんだぞ?」
俺の目にはさらさらの雪にしか見えないが、どうなんだろうな……。そこにステラがすすっと答える。
「悪くないですよ、まろやかです」
「経験者がいたんだぞ」
「給水ポイントはここにしかありませんからね」
「どーいうことぴよ?」
「2層からここまで、水を得る場所もないからな。魔法なしだと飲み水にも苦労するだろう」
「そうですね。エルト様とナナがいないと、とても大変です」
「なるぴよね!」
ザンザスのダンジョンでは、飲み食いできるモノが非常に少ない。第2層は岩山で、草さえもない。第3層のキノコはほぼ食用にはならない。
これはザンザスのダンジョンが1000年攻略されてない理由のひとつだ。物資を持ち込もうにも、第2層のワープボールを突破できないと意味がない。補給用の魔法があるかどうかで、難易度は大きく違う。
「とはいえ、ここの水も飲用には非推奨ですが……」
レイアの言葉にはしかしやむを得ないときには仕方ない、という意味がある。
「煮沸とろ過をすれば、さっきのキノコよりは悪くないよ」
ナナは小瓶に雪を詰めている。研究用に持ち帰るようだ。
「そうですね、飲めないわけではありません……」
レイアの遠い目からは、冒険の苦労が察せられる。彼女もここには何度も訪れているしな。
「ぴよ!」(水分補給完了!)
「ぴよっぴ!」(潤いました!)
少し飲んでコカトリスたちも満足したようだ。
「ウッドはどうだ? 体調は大丈夫そうか?」
「ウゴ! 平気だよ! 足元も楽しい!」
ざくざくざっく。ウッドが足元を踏み鳴らす。どうやら雪を堪能できているようだな。
「よし、進もうか。『鏡面の雪結晶』まであともう少しだ」
「「おーー!!」」
着ぐるみのおかげでまったく寒くない。俺たちは雪原を進んでいく。この階層でも動物はいない。精霊系統の魔物が生息しているだけだな。
むしろ魔物より、環境の過酷さのほうが問題だろう。限られた物資でこの第4層を突破するのは、気が滅入る話だ。
「ところで……『鏡面の雪結晶』は近くにありそうか?」
俺は隣を歩くステラに聞いてみた。『鏡面の雪結晶』は第4層のどこにでもあるモノではない。とはいえ、俺たちが階層のどこに到着するかはその時次第であり、事前にはわからない。第4層に来なければ、どれくらい時間がかかるかはわからないのだ。
「それほど遠くはありませんね。悪い引きではないと思います」
「それはなによりだな」
「わふ。横断するハメにならなくて、良かったんだぞ」
「幸運ぴよね!」
「ですが、休憩を1回は挟まなければ無理ですね」
「わかった。無理はしない」
この階層についても、ステラの経験が頼りだからな……。視界も悪いので、より慎重に進む必要がある。
そうして前に進んでいると……ふむ、魔力の揺らぎがあるな。
これは雪の精霊――つまりは魔物だろうか。
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