735.ドリアードちから
その頃、ヒールベリーの村にて。
ナールとアナリアが広場でのんびりとお茶をしていた。
「エルト様たちは今頃、ザンザスのダンジョンですね……」
「順調ならキノコのエリアにいるはずにゃ」
「あそこはポーションの素材がたくさん採れるところではあるのですが……」
アナリアが若干うっとりしながら答える。
「でもあそこは冒険者以外は立ち入り禁止にゃ?」
「ええ、そうですね。私も薬師ギルドと冒険者ギルドの合同調査で数回入っただけです」
「にゃー、でも入ったことがあるのにゃ。羨ましいにゃ」
ナールが紅茶をすすりながら頷く。
「ポーションを取り扱っている者なら、あそこは憧れでもあるにゃ。どこへ行っても不思議なキノコがあるにゃんて……」
「いいですよねぇ……」
そんな感じで話していると、ふたりの前をテテトカとドリアードたちがえっさえっさと早歩きで通り過ぎていく。
普段はぽてぽてと歩いているドリアードからすると、大急ぎと言っていい速度だ。
「どうしたのにゃ?」
「見に行きましょうか」
ナールとアナリアは紅茶セットを置き、テテトカたちを追うことにする。
広場のそばの道でテテトカたちは立ち止まっていた。
「うーん、はみ出してますねー」
テテトカたちはお昼寝中のコカトリスを取り囲んでいた。確かにテテトカの言う通り、馬車道にはみ出している。
「あー、寝相のせいですかね」
「たまにごろごろ転がっているにゃ」
とはいえ、広場から出るコカトリスは珍しいが……。
「すやー……ぴよー、ぐー……ぴよー……」
「起きますかねー」
つんつん。
「起きませんねー」
「人を集めて動かすにゃ?」
「まー、この子ならうちらで問題ないですよー」
テテトカたちはすすっとコカトリスの身体の下に腕を入れると、一気に持ち上げる。
「大丈夫なんですか!?」
「はーい、大丈夫ですー」
テテトカたちはそのままえっちらおっちら、広場の芝生の上へコカトリスを運んでいく。たった数十メートルなので、すぐに終わった。
「んしょー、ほいっと」
テテトカたちが芝生の上にコカトリスをそっと置いた。コカトリスは深く眠って、起きる気配はない。
「すやー、ぴよー……」
「ではではー、ぼくたちはこれでー」
「じゃねー」
テテトカたちはぽてぽてと散開していった。アナリアとナールは顔を見合わせる。
「なるほど、ぴよちゃんの寝相の裏にはこんなことが……」
「すごい早業だったにゃ」
それにしても、とアナリアは思った。あの小さい身体のどこにそんなパワーがあるのだろうか……。それとも地面に埋まり続けると、大地のパワー的なもので、ああいうふうになれるのであろうか……?
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