722.第1層中間地点へ
「ふむ……」
ここがいままで何度も話に聞いた、ザンザスのダンジョン第1層か。感慨深いな。
とはいえ、見たところは何の変哲もない平原である。ススキが生い茂り、ところどころ化石樹等があるだけだ。
「ぴよー。ひろびろぴよね」
「わふ。空も綺麗に晴れてるんだぞ」
確かに見た限りではただの平原である。しかし身体にまとわりつく魔力は隠しようもない。これまでに行った、どこよりも濃密だ。
「これだけの魔力があってコカトリス以外いない、というのも不思議だな……」
俺の隣のステラが答える。
「ええ、本当に。ここは強い魔力をダンジョンの維持そのものに使っているようで……」
「1000年間もほぼ変わらない、というのも頷けるな」
そのまま俺たちは第2層への門へと向かう。そこまでに1回休憩を挟む予定だ。
その休憩でディアとマルコシアスを着ぐるみの外に出して、じかにダンジョンを体験してもらうつもりだ。
ナナがお腹のポケットをごそごそしている。
「うーん、日差しが……。ここはいつでも太陽光が強すぎる」
ナナはぽんっと漆黒の日傘を取り出した。どうやら対策は万全らしい。
「ウッドは2回目だが、どうだ?」
「ウゴ、ここは落ち着く……。天気がいいから」
ウッドとナナの感じ方は対照的だな。確かにウッドにとって日差しは大切だ。
ステラが最後尾のコカトリスたちの様子をうかがう。
「ぴよちゃんたちは……」
「ぴよ」(ススキは味がしない)
「ぴよっぴよ……!」(村に比べるとまぶしめ……!)
……。どうやらあまり感慨はないようだな。まぁ、どこにいってもそんな感じだから、驚くことでもないが。
しかし平原を歩いていても、他のコカトリスには出会わないな。
「意外とコカトリスに会わないんだな」
「ご飯のあるところが離れていると、出会う確率はかなり低くなりますね。今がそうした時期のようです」
ススキをかき分けながら進んでいくと、小さな川に出た。これがコカトリスたちの飲み水になる川だな。
「もう少しで休憩地点だな」
「ええ、この川を上ったところに……」
そこでステラがはっと川の上流に視線を向けた。
「なにぴよ?」
「異常があったんだぞ?」
ディアとマルコシアスも着ぐるみの中からステラの様子を察する。
「川になにか――」
そこで俺は絶句した。
どんぶらこ、どんぶらこ。
仰向けのコカトリスたちが、川幅いっぱいに流れてきたのだ。
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