721.すやすやコカトリス
俺が先頭なのだが、思い切りザンザスのコカトリスが出入り口を塞いでいる。
「どうかされましたか?」
俺の着ぐるみの中にきっちり防護されているディアとマルコシアスがステラに答える。
「ぴよ! 目の前でなんかすやすやしてるぴよ!」
「わふー。大きなコカトリスがいるんだぞ」
そこにレイアがひょこっと顔を出す。
「ああ、それは――最近このあたりにいるぴよちゃんですね。ごろごろ寝転がって来ちゃってるんです。いつも運んでいるんですが……」
「それでしたら、私が運びますよ!」
「ウゴ、俺も手伝う!」
ステラとウッドが手を上げ、先頭にやってくる。すやすやコカトリスは大きな寝息を立てていた。
「すやー、ぴよー……。すやー、ぴよー……」
ステラがコカトリスの身体すれすれにぎゅむぎゅむと回り込む。まずステラがよいしょっと腕をすやすやコカトリスのお腹の下に入れる。ウッドはこちら側から腕を身体の下に差し込む。
「せーの!」
「ウゴー!」
ステラもウッドも力持ちだ。難なくコカトリスは持ち上がったようだ。ステラとウッドはそのまま移動し、門の近くから移動させる。
「えーと、それでこのぴよちゃんはいつもどこに……ああ、なるほど」
ステラが頷いている。俺にもこのコカトリスがどこから来たのかすぐわかった。
「……ススキが薙ぎ倒されているな」
ザンザスの1層は草原が続く。大部分はススキだが、それが寝転がったコカトリスによって倒されていた。ナナが薙ぎ倒されたススキの向こうを羽で指す。
「あっちの方角だね。どれくらい距離があるかはわからないけど」
「それほど距離はないはずです。……かなりの大きさのぴよちゃんですが、大丈夫ですか?」
「ええ、まったく問題ありません!」
「ウゴ! よゆー!」
ふむ、ふたりとも本当に余裕そうだな……。
「おにいちゃんはやっぱり力持ちぴよ!」
「軽々と持ち上がったんだぞ!」
そして倒れたススキを辿っていくと、数十メートル先にコカトリスのお昼寝所があった。同じような大きさのコカトリスたちがすやすやと眠っている。
「どうやらここから寝ぼけて来たみたいだか……」
「元の位置に戻しておきましょう……」
すすっとステラとウッドがすやすやコカトリスをススキの上に置いた。さして揺れてはいなかったが、ここまでまったく起きる気配がない……。
「ぴよー」(すやってるぅー)
「ぴよよ……!」(気持ちはわかる……!)
コカトリスは寝るときは深く寝るからな。
「とりあえず門の前からは移動できたな。じゃあ、進んでいこ――」
ごろごろごろ……。
今度は別のコカトリスが明後日の方向に転がっていった。どうやらこのコカトリスも寝相が悪いようだ。
…………。
俺はじっとみんなの顔を見る。そこでステラがこほんと咳払いをした。
「……寝相のよくないぴよちゃんは、少なくありませんので」
ということらしいので、俺たちは先に行くことにしたのであった。
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