718.明日へ
その日の夜。
夜ご飯を食べ、少しすると子どもたちの意識はすとんと落ちていた。やはり体力を使い果たしたらしい。
みんなで綿の中に包まりつつ、俺とステラは深い眠りに落ちている子どもたちを微笑ましく見守っていた。
「ぴよー……すやー、ぴよー……」
「わふふー……すぅー」
「ウゴ……すぅ……」
小声でステラが話しかけてくる。
「ふふっ、よく寝ていますね」
「ああ、さすがに疲れているようだな」
さっきまで元気だったが、旅行だからと限界を突破していたかららしい。まぁ、俺も覚えがある……。子どもの頃はそんなものだ。
「ぴよー……ナナぴよ、そのトマトジュース全部飲むぴよ……?」
ディアがやや難しい顔をして、マルコシアスのお腹に頭を埋める。
……どんな夢を見ているんだ?
「エルト様もザンザスは初めてですが、どうでしたか?」
「ん、そうだな……。思った以上に人が多く、活気があったよ」
この世界の記憶を考えるに、ナーガシュ家の直轄領でもこれほど栄えていたところはなかった。
「……私にとってもそうですね。ザンザスに来たのは2回目ですが、昔からは考えられません」
「ステラ……」
「人の営みは、すごいものですね」
「それを言うなら、ステラもすごいんじゃないか?」
このザンザスだけでなく、世界にも名を知られる冒険者だ。もちろん実際的に冒険者としても卓絶している……のは日々のアレコレでよくわかる。
「ひとりができることは、案外小さいものですよ」
「……そうだな。ヒールベリーの村もたくさんの人の力で成り立っているし」
「ザンザスのお偉いさんにディアたちを紹介したのも、そうなんじゃないですか?」
「ああ、子どもたちの成長した先を考えるとな」
今のところ、そうした考えはうまくいっていると思う。まだまだ生まれたてではあるが、ディアたちはとても賢い。
「お腹たっぷんたっぷんぴよよ……」
夢の中のナナはどうやらトマトジュースを飲みすぎているらしい……。
「そろそろ俺たちも寝るか」
「ええ、そうですね。おやすみなさい」
「おやすみ……」
俺はカーテンの小さな隙間から星を見上げる。ほとんどヒールベリーの村で見るのと変わらないのに、とても澄んでいるように俺には見えたのであった。
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