712.大通りにて
それから俺たちは次の目的地、ザンザスの冒険者ギルドに向かった。
さすがにここまで来て、ザンザスの冒険者ギルドを見学しないわけにはいかないからな。
博物館の表側から出ると、まさに人・人・人だ。ディアとマルコシアスをお腹ポケットに入れておいて良かった。
「いつもならお昼寝の時間だが、眠かったりしないか?」
「ぴよっ。だいじょーぶぴよ! おめめパッチパッチぴよ!」
「わふふ! おめめギンギンなんだぞ!」
ディアとマルコシアスが首をフリフリしながら、ザンザスの街並みをきょろきょろ見ている。
確かになにか面白そうなモノはないかと、ふたりは真剣だった。
ステラがコカトリスたちに声をかける。
「ぴよちゃんたちも大丈夫ですか?」
「ぴよ……!」(まだ眠くない……!)
「ぴよよ!」(お昼寝タイムはまだほんのり遠いよ!)
コカトリスたちは若干眠そうだな……。しかし冒険者ギルドではしっかりお昼寝タイムも用意されている。問題はないだろう。
「いらっしゃいいらっしゃい、ザンザス印のハタキはいらんかねー。コカトリスと同じ黄色だよ〜」
「街中で喉が乾いたら、オレンジジュースはいかがかねー。今ならワンサイズおまけだ〜」
大通りでは左右で露店が軒を連ねている。気がついたが、ザンザスでの商売では高確率で黄色が絡んでいるな。黄色い布、黄色い服、黄色い飲食物……。
「ウゴ、さっきのハタキは本当にコカトリスの色に近かったね」
「そうだな、よく研究している……」
露店で本物のコカトリスの羽毛を取り扱っている可能性はない。着色したモノに違いないだろうが、色合いはかなり本物だ。
さすがに触れば残った魔力や感触でわかるだろうが、遠目ではそれっぽく見える。
「ぴっぴよー。コカトリスの大道芸はいかがー?」
「マジぴよ?!」
「わっふ!!」
ディアとマルコシアスが素早く声に反応し、首を向ける。
そこではぴよ着ぐるみが大きなボールの上で器用にバランスを取っていた。
「ぴよ、ぴよ……さぁさ、ホンモノのコカトリスもこれほどバランスは良くあるまい。世にも珍しいボール乗りだ!」
なるほど……。確かに俺の着ぐるみスキルだとアレは難しそうだな。熟練の芸である。
「ぴよ……足さばきすごぴよ」
「わふふ、落ちそうで落ちないんだぞ」
こうした大道芸人はヒールベリーの村では珍しい。やはり大都市ならではということか。
見物客もはらはらしながら、着ぐるみのバランス取りを見守っている。
「さてさて、よっと……誰かこのバランス取りにチャレンジしてみたい人はいるかな? もちろん支えますからご安心。土産話にどうぞおひとつ……おや? そこの着ぐるみのご一団、どうです? やってみませんか?」
ボールから降りた大道芸人ぴよが俺たちをじっと見つめながら、羽で招いている。
「誰のこと言ってるぴよ?」
「どう見ても我らなんだぞ」
そこでコカトリス(本物)がすすっと前に出る。
「……ぴよ?」(……乗ってみろって?)
大道芸人ぴよが声をかけたのは、本物のコカトリスじゃないか……!
そしてすでに前に出たコカトリスは瞳をきらきらさせていた。
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