710.ゴツゴツぴよ着ぐるみ
これは北のヴァンパイアの城で見かけた、プロトタイプのぴよ着ぐるみだな。黎明期は、こうした着ぐるみでヴァンパイアは陽光から身を隠していたという。
ナナがえっへんと胸を張っている。
「これは僕が協力した、新しい展示品だよ」
「ええ、しかもなるべく当時の見た目に近づけた記念すべきレプリカです……!」
レイアもご満悦である。
「ウゴ、じゃあ最近作ったの?」
「その通りです! いかがでしょう?」
ステラはふむふむとゴツゴツぴよ着ぐるみに近寄る。
「うーん、実に味がありますね。レプリカとはいえ、ぴよちゃんの魅力が歴史的な重みをもって再現されています……!」
ステラが心の底から感心したように頷く。一方、コカトリスたちは不思議そうな目でゴツゴツぴよ着ぐるみを見つめている。
「ぴよ!」(つるつるしてる!)
「ぴよよ!」(撫で心地はよさそう!)
コカトリスたちは金属製品を基本的にオモチャとしてしか認識していない。あるいはかゆいところに擦りつける道具か……。
「重そうぴよね……」
「ヤバそうなんだぞ」
「大人の女性ひとり分くらいですかね。フルプレートアーマーよりちょっとだけ重めです」
「うーむ……魔力のアシスト機能がないとそんなもんだよな……」
ナナがぴこぴこと羽を振る。
「実際のところ、初期のぴよ着ぐるみははほぼ鎧のようなものだから。まず太陽を遮ること、魔物との戦いでも容易に壊れないことが重要だったので」
ヴァンパイアは太陽の光に当たったからといって、即死するわけではない。だが能力は大きく下がってしまう。それは戦闘において致命的だ。
レイアが次の展示物に案内してくれる。コーナーの入り口から、ぴよ着ぐるみが並んで置かれているな。
これらのぴよ着ぐるみは、ゴツゴツ着ぐるみからの進化を再現しているようだ。奥にある着ぐるみほど、現代の着ぐるみに近い。
「ここから段々と、現在のぴよ着ぐるみに近づいていきます。可動性が向上し、重量面でも着実に改善がなされるのです」
「これはいいですね。ぴよちゃんグッズへの理解度が大きく深まります……!」
ステラが瞳をきらきらさせている。こうした展示は確かに面白い。日本だと刀や鎧が時代別に並べられているようなものだろうか。
「こんなふうに変わってるぴよねー!」
「腕や脚の部分がけっこー変化あるんだぞ」
ディアとマルコシアスが楽しそうに、ぴよ着ぐるみの変化を語り合っている。いいことだ。
「ウゴ、かなりのお金がかかってそう」
「実はそうでもありません。魔力アシストの機能はないので、特注の鎧を作る程度です」
そこでウッドがはっと気がついたようだ。
「ウゴ……! もしかして魔力をあんまり感じないけど、金属もミスリルとかはあんまり使ってない?」
「まさしく! 本来であれば、このグレードのぴよ着ぐるみはミスリルやアダマンタイトの合金が使われますが、見えない部分には使っていません」
「ウゴゴ! 理解できた!」
おお、ウッドが見えない部分の素材に気がついた。ウッドも成長しているな。俺は着ぐるみのもふもふハンドでウッドを撫でる。
「よく気がついたな、素晴らしいぞ」
「ウゴ、ありがとう!」
「完全に当時の着ぐるみが再現できないのは、仕方ありませんね。お値段も10倍くらい違ってしまうでしょうし」
ステラの指摘にレイアが何気なく応じる。
「ええ、『今のところは』……。さすがの私も『いきなり』無茶はできません」
……。
ま、まぁ……この展示物が評判になったら、バージョンアップの予算も下りるのだろうな。
お読みいただき、ありがとうございます。







