708.旅先の出会いはいつも新しいとは限らない
中庭のテラスには山盛りのサラダがすでに置かれていた。
「ぴよー!」(お腹空いたー!)
「ぴよよー!」(お勉強は頭を使うー!)
コカトリスたちがどたどたとテラスへ向かう。レイアはそれをにこにこと眺めていた。
「ふふふ……どうやら気に入ってくれそうですね」
「ぴよ! おいしそーぴよ!」
「わふ……くむくむ……」
お腹のポケットに入っているマルコシアスが鼻を利かせる。
「どうかしたのか?」
「大したことじゃないんだぞ」
「……なるほど」
ステラもなぜかテラスの様子を見て頷いている。俺は首を傾げながらテラスへと向かう。
すでにコカトリスたちはテーブルに貼りつき、今にもサラダに羽を出しそうだ。ゴーサインが出たらサラダの山に頭を突っ込みそうなくらいである。
「ウゴ、どうしようか……」
「ま、まぁ……俺たちの食事作法には気を使わなくていいからな」
ということを伝えるも、コカトリスたちは俺たちが席につくまでしっかり待っていた。羽をぱたぱたさせてはいたが……。
さすがに俺たちの前にはマリネの前菜やスープ、魚料理なども置かれたが。コカトリスたちはサラダや果物しか食べないからな……。
ホストのレイアが宣言する。
「では、恵みに感謝を!」
「「感謝を!」」
コカトリスたちも食事が始まったと理解したらしい。サラダをもっしゃもっしゃと食べ始める。
「「ぴよー!」」(ご飯の時間だー!)
そこでコカトリスたちの動きが一瞬止まった。
「ぴよよっーー!!」(おいしー!!)
「ぴっぴよっ!!」(な、なんて素晴らしいサラダなんだ!!)
コカトリスたちが感動している。
「ぴよよー!」(濃厚で瑞々しい味わいのレタスにフレッシュ感あふれ甘味と酸味がブレンドされたトマトにしゃきしゃきしている辛味少なめのオニオンが素晴らしいー!)
「ぴよ……!」(ドリアードちゃん以外にこんなおいしい野菜を栽培できるなんて……!)
ん? 待てよ……。
俺はマリネの前菜を食べる羽を止め、サラダを取り分けて一口食べる。
「……おいしい」
ディアも羽を伸ばしてもぐもぐとサラダを食べる。
「うまぴよ!」
しかし食べ覚えのある味だ。というよりも昨日も食べた記憶があるような味のサラダだった。
まさか……俺の目線(着ぐるみ越しだが)に気づいたらしいステラがこほんと咳払いをしてレイアに問いかける。
「……これはヒールベリーの村から取り寄せた野菜のサラダですよね?」
「ええ、舌の肥えたぴよちゃんもこれなら喜んでくれるかと思いまして」
レイアがにこにこしている視線の先で、コカトリスたちは大喜びで山盛りのサラダを食べまくっていた。あとは木のコップに入っているぶどうジュースも飲みまくっている。
「ぴよー!」(うまーい!)
「ぴよよ!!」(旅先でこんなにおいしい食べ物と出会えるとは思ってなかった!)
ぴよぴよ。ぴよよよよよ。
……普段食べている村の野菜とは知らずに、コカトリスたちは大喜びしていた。
なるほど……ステラは見た目、マルコシアスは匂いでわかっていたのだろうな。
ディアとマルコシアスはマリネを一生懸命食べている。家でもマリネをするが、それほど頻度は多くない。
「ぴよ……! でもこの酸っぱいのは村にはあんまりないけど、とってもおいしいぴよ!」
「わふふ。高度な技術なんだぞ!」
その様子をステラが微笑ましく見つめている。
「ふふふ、おふたりとも気に入ったみたいですね」
「それはザンザスでも一番のシェフたちが手がけたものです。熟成させた酢は野菜にさらなる味わいをもたらしますからね」
熟成させた酢か。俺もマリネを一口食べる。もぐもぐ……。
ふむ、確かに酸味は強いが尖ってはいない。非常にまろやかで深みがある。これは村ではまだ作れないな。
「ウゴ、お土産に持って帰ったら?」
「ぴよ! そうすればおうちでも食べられるぴよ!?」
「ああ、そうだな……。悪いがあとで用意してもらえるか? もちろんお金は払う」
レイアは俺の言葉を予期していたように頷く。
「いえいえ、数瓶お譲りしますので、どうぞお持ち帰りください……! ディアちゃんの口にも合って良かったです!」
例えるなら新潟出身の子が修学旅行で新潟産コシヒカリを食べるみたいな……!!
それもまた経験なんだぞ✧◝(⁰▿⁰)◜✧







