704.とあるレリーフ
俺の着ぐるみの腹ポケットに入っているディアとマルコシアスが声を上げる。
「すごぴよー!」
「わふー! 人がいっぱいなんだぞー!」
「……俺も初めて来たが、表通りはこんなに人がいるんだな」
時刻は昼ちょっと前。この世界でここまでの人混みは本当に初めてだった。
「ウゴ、はぐれないようにね!」
「「ぴっぴよー!」」(はーい!)
コカトリスたちは前と横と後ろを俺たちに囲まれている形になっている。これならはぐれる心配もない……。それと街中に平然とコカトリスがいるが、誰も気にしてはいないな。
というのも、ちらほらとコカトリスの着ぐるみを着た人が店の呼び込みをしていたり、看板を持って立っていたりする。俺たちと一緒に来たコカトリスも、こうした着ぐるみの団体だと思われているのだろう。
俺の視線に気がついたのか、レイアが解説を入れてくれる。
「ザンザスも人が増えてきましたが、比例して着ぐるみも増えています。実に素晴らしいことです」
「それは……集客に効果があるということか?」
「そのような効果ももちろんあります!」
……ちょっと疑わしい。というのも、あまりにも着ぐるみが多い気がする。それこそ10軒にひとりコカトリス着ぐるみがいるのだ。
さすがに集客効果というよりは、ザンザスはコカトリスの街だと刻み込む意義のほうが大きいだろう。
「わっふ。母上の銅像なんだぞ」
「ほんとぴよ」
人混みに隠れていたが、ちょいちょいステラの銅像も立っているな。通りにある銅像は、どれもかなり年季が入っている。
「ムズムズしますね……」
ステラがほんのわずかに口を曲げる。こうした類が好きではないステラには微妙だろうが、これも街の人の好意ではある。観光資源かもしれないが。
「さぁ、そろそろ博物館に到着します。ちょうどリニューアル中なので貸し切りですよ」
「それはありがたいが……よかったのか?」
「ええ、ザンザスの博物館は元々定期的に展示品を入れ替えしております。ぜひ、ゆっくりとご覧頂ければ……!」
というわけで俺たちは博物館の入り口に到着した。
『ザンザス市立博物館』
厳かな銅文字の上に、きりっとした顔のステラのレリーフがある。すごくよく似てるな。
「もしかしてこのレリーフは……」
俺はこそっとステラに問いかける。ステラは少し遠い目をしている。
「ええ、前にあったレリーフは昔のもので似てなかったので交換したそうです。うぅ、そんなことしなくてもよかったのに……」
「うーむ……」
ステラは俺の前世で言うと、徳川家康みたいな昔生きていた有名人だ。もし家康が現代地球に蘇ったら、後世の肖像やらなんやらのうち、やはり似ていないのは撤去されるだろう……。難しいものだ。
大理石の門をくぐり、博物館に入る。落ち着いていて知的な雰囲気だな。
と、入ってすぐ横にステラのレリーフが置いてある。入り口のレリーフと同じサイズだな。これが取り替えられてしまったレリーフか?
説明文にはこうある。
『現存する最古の英雄ステラの大理石レリーフ』
確かに精巧なレリーフだ。しかし、そうだな……俺はレリーフとステラの顔を見比べる。
「ぴよ……」
「わっふふ……」
ディアとマルコシアスもレリーフを見て、ステラの顔を見て、もういちどレリーフを見た。
うむ。本物のステラより鼻が低く、耳もかなり短い。そして髪は不自然にカールして長い……。エルフ的な雰囲気がまるでなかった。製作者はエルフを見たことがなかったのかもしれない。つまり残念だが、全然似ていなかった。
「すごい、あの着ぐるみの団体……まるで本物みたいにぴよの鳴き声を出してる!」
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