703.売れていた
こうして俺たちは物流センターの見学を終えて、黄色い屋根の建物を出た。次は博物館の見学だ。
そこでマルコシアスがレイアに質問する。
「わふ。ところであの中にぴよ帽子がなかった気がするんだぞ」
……!
俺とウッドが目配せする。マルコシアス、あえて踏み込むとは恐ろしい子……!
「この帽子ですね?」
レイアが自分の帽子の紐を引っ張る。
『ぴよーー!』
「それなんだぞ」
ウッドが小さく首を傾げる。
「ウゴ、どうして引っ張ったの?」
「ウッド、引っ張りたかったからですよ」
ステラがうんうんと頷く。
「しかし気になります。まさか……」
そこでレイアがぱぁっと顔を輝かせる。
「そうなんです! 大口の注文が入って、いま一生懸命作ってます!」
「おお……そうだったのか」
「この前、北のほうの戦いが終わったあと――営業してみたのですが、室内用として思ったよりヴァンパイアの方々から注文がありまして」
「着ぐるみを使わない時用だね」
ナナが羽をぴこぴこさせる。
「このマジカルな着ぐるみは魔力がないとただの動きづらい着ぐるみだから、他の防寒具も欲しくなる」
「ぴよ。でもナナは脱がないぴよ」
「僕は桁外れに魔力があるから。そうでないヴァンパイアにとっては帽子もまた選択肢なんだよ」
「なるぴよ!」
「どうもヴァンパイアの方々はコカトリスグッズに対して愛着や権威を感じている模様……なので鳴き声機能も高い評価を得ました」
「ウゴ、普通の帽子よりこのぴよ帽子のほうがいいってこと?」
「そのほうが価値があるようです。というわけで、ぴよ帽子はしばらく在庫が足りません」
「そんなに売れたのか……」
「元々、それほど早く作れないので……。特にこの、鳴き声の部分が……」
レイアが紐部分を指差す。
「なるほど……。そこがネックなわけだな」
「しかし仕方ありません。機能を削るわけにもいきませんから、生産過程の合理性をさらに追求し、対応することにしています!」
レイアが楽しげに首を振る。
「わふ……」
「ぴよ……」
マルコシアスとディアの視線がレイアのぴよ帽子に向いている。そこで俺は気がついた。
『たくさん売れたなら、なぜ宣伝用のぴよ帽子も今も被っているのか……?』
そんな疑問を抱いている目つきだ!
俺はこそっとお腹のポケットに入っているふたりに小声で話しかけた。
「あの帽子は大切なものなんだ。だから外せないんだよ」
「わふ……母上のバットみたいなものだぞ?」
「ああ、そういうものだ」
「なるぴよね……!」
ふぅ、これでよし。
倉庫街の通りはたまに馬車が通るだけで、人はあまりいない。店があっても明らかに法人向けが多く、観光客向けじゃない。
しかしそれも博物館に近づくまでだった。
通りを越えるたび、だんだんと人が多くなっていく……!
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