702.物流センター
ザンザスの大通りとは真逆なこともあり、街中でも人通りは少ない。遠くに喧騒は聞こえるが、こちら側は静かなままだ。
ひとつひとつの建物は大きいが、倉庫が多いのだろうか。それほど人気があるようには感じない。
「どうぞ、こちらです」
レイアの案内に従い、黄色の屋根の建物に入る。
そこにはたくさんの木箱、それに十数人の職員が働いていた。
木箱のいくつかはまだフタがされていないので、中が見える。そこにはコカトリスのぬいぐるみやあのレイアの帽子が詰め込まれていた。
「おお、出荷している……」
「おかげさまで注文は増え続け、私たちも大いに潤っております」
俺たちはそこでザンザスの出荷風景を視察した。と、奥のほうにはまた別の木箱がいくつも置いてある。
それら木箱の中には野ボール用品が入っていた。バットとグローブだな。
「ほうほう、きちんと普及しつつあるようですね……!」
覗き込んだステラが満足そうに頷く。
「しかし報告によると、我々以外が製造したバットやグローブが出回っているところもあるとか……」
「まぁ、野ボールについては仕方ない。こちらに似せすぎないなら放置する」
「そうですね……。普及していく過程で避けられません」
これについてはステラともすでに話し合っている。バットやグローブ、ボールはそれほど技術力のいる製品ではない。
というより、俺の作った植物魔法のバットは一般家庭用なのだ。グローブもボールも同じく、一般用である。前世でプロ用品に触ったこともないしな。
塗装などで違いは出しているものの、本質的に模倣品は規制のしようもない。コカトリスのぬいぐるみのほうがバットよりもよほど模倣が難しい。
それにうるさく言うと、野ボール自体の普及が遅くなる。それでは本末転倒だ。
野球はテレビやラジオの出る前からプロスポーツとして成立した競技である。きっとこの世界でも幅広く楽しむ層が出てくるに違いない。
「ぴよー……」(村でぶんぶんしてる棒がたくさん入ってる……)
「わふ。かなり出荷されてるんだぞ」
「ええ、やはりステラ様の武勇伝とセットだと、興味を持たれる方も少なくありません」
「バットをもったかあさまは最強ぴよ!」
「ふふっ、私の強さはバットのおかげですからね」
着ぐるみの奥のナナから『バットはそんなに関係ないと思うけど』という視線を感じる。声に出さない程度にはナナもステラを理解していた。
俺もこの点についてはナナと同意見である。そもそも素手でドラゴンを倒せるくらいステラは強いのだ。何を持っても強い。
とはいえ、こうしてちゃんと見学できたのはよかったな。ディアもマルコシアスも色々と興味深く見てくれている。
しかし俺は気がついていた。
ここでも頭にぴよ帽子を被っているのは、レイアだけということに……。
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