691.たまには
イスカミナが棒を使い、焚き火から芋を横にどけていく。その手さばきもスムーズなものである。
「もう塩水に浸けてあるもぐから、そのままでイケるはずもぐねー」
「ふふっ、楽しみです」
イスカミナが芋をどけるたび、コカトリスたちの視線が芋に吸い寄せられる。
まだ芋は熱々で、イスカミナたちには食べられないが……。
「……コカトリスは熱いの大丈夫もぐ?」
「多分、大丈夫なはずですが……」
「もしアレだったら、先に食べていてもいいもぐ」
アナリアがララトマにその旨を伝える。それをさらにララトマが通訳するとコカトリスがしゅばっと不燃布に包まれた芋を羽で持った。
コカトリスはノータイムで試食に移る。
「ぴっぴよ〜」(それじゃ好意に甘えまして〜)
「ぴよー♪」(やったー♪)
「ぴよぴよー!」(食べるよー!)
この程度の熱さでコカトリスがダメージを負うことはない。そのまますすっと不燃布を開けて芋を取り出す。
「「ぴよー!!」」(お芋だー!!)
お預けをされていたコカトリスが瞳をキラキラさせる。
「遠慮なく食べてもぐー」
「まだまだありますからね〜」
実際、用意した芋は相当な量であった。元々多くの人に振る舞うために大量に用意されていたのだ。
……さすがにすべてのコカトリスと村人を満腹にさせるほどの量ではないが。
「ぴっぴよー」(はむはむー)
「ぴよよー」(もぐもぐー)
コカトリスたちが焼き芋を食べ始めると――。
はふはふ……。
びくびくびくっ。
コカトリスたちが目を見開き、身体を震わせた。
「なかなか珍しい反応ですね……!?」
「どうもぐ? 焼き上がりには自信があるもぐ!」
イスカミナが胸を張ると、コカトリスたちが焼き芋を食べながらすすっとイスカミナの近くに寄ってきた。
「ぴよ……!?」(おかわりは……!?)
「ぴよよっ?」(まだあるよねっ?)
ふんふんとコカトリスがイスカミナとアナリアを交互に見つめる。
「おかわりが欲しいみたいです!」
「たくさんあるもぐー!」
イスカミナが答えるとニュアンスが伝わったのか、コカトリスが羽をバタバタさせる。
「「ぴよー!」」(やったー!)
そんな様子をアナリアとララトマは微笑ましく見つめている。
「あはは、ぴよちゃんたちも気に入ったようですね」
「です! この村はおいしいものがたくさんあって、実にいいのです!」
ララトマが懐から草だんごを取り出し、口に放りこもうとする。
「あー……む?」
「「ぴよー……」」(じーっ……)
コカトリスははふはふと焼き芋を食べながら、ララトマの草だんごに視線を走らせていた。
「コカトリスはやっぱり草だんごも大好きもぐねー! 一緒に食べればいいもぐ!」
「ですね、温かい焼き芋とひんやりもちっとした草だんご……」
「食べますですー?」
「「ぴよよー!」」(もちろんー!)
ララトマの懐からは草だんごがどんどん出てくる。
コカトリスたちは焼き芋を頬張りながら、ララトマから草だんごを受け取り始めた。
そこでアナリアが――ぴたりと動きを止める。
アナリアは気がついてしまった。このデザート祭りの行く末は……。
「まぁ……たまにならいいですよね。たぷみ的にも……!」
お読みいただき、ありがとうございます。







