690.傾き
そう言ってイスカミナは新しく芋を不燃布で包み、焚き火に放り込み始める。
「もっぐもっぐー」
「めっちゃぴよちゃんが見てきますね……」
アナリアはコカトリスたちの視線に気が付いていた。
「ぴよー……」(じっー……)
「ぴよよー」(じじーっ)
コカトリスたちは焚き火を凝視している。その瞳はきらきらと芋の焼き上がりを待ち望んでいた。
「もぐ。もう少しかかるもぐねー」
追加の芋を放り込み終わったイスカミナは、長い棒で芋の位置を調整する。
「もう少しかかるそうですー」
イスカミナの言葉を翻訳するララトマ。
「……ぴよ」(……おっけぃ)
「ぴよよ……」(待つべし待つべし……)
コカトリスたちは相変わらず焚き火を見つめている。
ずい、ずいっ。
焚き火を見つめるコカトリスの身体が、徐々に斜めに斜めになってゆく。まるで炎に吸い寄せられるかのように……。
もちろん、この程度の火でコカトリスたちが火傷することはあり得ない。それどころか1本の毛さえも燃えないだろう。
しかし焚き火に突撃されたら芋は生焼け、台無しである。
「ステイ、ステイです!」
ララトマが傾きかけたコカトリスを後ろにひっぱり、元に戻した。
「ぴよっ……!」(はっ……!)
焚き火からは少しずつ香ばしい匂いが立ち上る。
そうすると、他のコカトリスの身体が傾きかけてくる。
「アナリア、引っ張ってくださいです!」
「わ、わかりました!」
アナリアも傾いたコカトリスの後ろに立ち、元の位置に戻そうと引っ張る。
「芋はまだですよ、えいっ!」
「ぴよよっ……!」(おっと、芋の香りで……!)
「あっー、今度はこっちの子です!」
「大変もぐ……」
イスカミナは芋で手が離せない。
「でも何で焼き芋にはこういう反応もぐ? 他の果物や野菜とは反応がなんだか違うもぐ」
「ええ、そうですね。普段は食べ頃じゃないと絶対に吸い寄せられたりはしないはずですが」
ぐいっとふわもっこなコカトリスの傾きを直すアナリア。
「ぴよ……!?」(私は何を……!?)
「……多分、焼き物の経験があまりないから吸い寄せられているんだと思うです」
「な、なるほど……」
「何回か経験すれば食べ頃がわかって、自制できるようになるはずです!」
むぎゅぎゅー。アナリアが傾いたコカトリスを後ろから引っ張る。
……こうしてしばらくコカトリスたちをステイさせると、イスカミナが声をかけてきた。
「はーい、そろそろ出来上がりもっぐー!」
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