688.耐える
それから諸々の準備を進めつつ、俺は折を見て訓練所でぴっぴよと練習を重ねた。
そんなある日――。
コカトリスたちが訓練所にやってきた。
「ぴよぴっー!」(だっしゅー!)
「ぴよよー!」(進め進めー!)
コカトリスは転ばないらしいが……。念の為、つるっといかないかの確認である。
なお、クリアしたらおやつの約束をしている。なのでコカトリスたちはやる気にみなぎっていた。
俺の着ぐるみの膝にはディアとマルコシアスが乗っている。
「わっふ。軽快なんだぞ」
「ぴよ。はやぴよね……!」
ちなみにステラとウッドは俺とは別行動で、ダンジョン潜りの準備を進めている。
「ふむ……やはり転ばないんだな……」
油の塗られた板や箱をコカトリスたちがてててーっと走り抜けていく。
「体幹がブレないんだぞ。つるっとしそうなポイントでも、大丈夫なんだぞ」
「あの真ん中の坂にはたっぷり油が塗ってあるぴよ。でも走るスピードは変わらないぴよ!」
何回も訓練所に油を塗っているので、ふたりもつるっとポイントがわかっている。
と感想を言い合っている間に、コカトリスたちは一度もつまづくことなくゴールに到着する。
「ぴよよー!」(ゴーール!)
「ぴよー!」(おっけー!)
ゴールした瞬間、コカトリスたちは急ブレーキで停止する。
きゅむむーっ。ぴたっ。
「「ぴよ!」」(完璧ー!)
うーむ、見事だ……。
ふわもっこボディに付着した油も、即座に浄化されて消えていく。
「ぴよー」(終わったよー)
「ぴよぴよ」(うきうき……)
コカトリスたちが俺のそばに近寄ってくる。
……コカトリスの視線が俺の着ぐるみの右羽に集まっているのを感じる。
「協力ありがとう。これが約束のおやつだ」
「おやつぴよよー!」
俺は右の羽を前に出し、植物魔法を使って果実を生み出した。
オレンジ、イチゴ、桃、ぶどう。
魔力が結集し、どんどん果物が右の羽の上から出てくる。
「ぴよー!」(おやつだー!)
それを見たコカトリスたちが目を輝かせ、しゅぱぱぱっと果物を選び取っていく。
そのまま、もしゃもしゃ……。
「ぴよー」(やっぱりこの右手から出てくる果物や野菜はおいしー)
「ぴよよー」(ほんとだねー)
どうやら満足なようだな。完全に俺の右手がおやつ発生装置と思われている気がするが。
膝の上にいるディアとマルコシアスが俺を見つめる。
「わふ……」
「ぴよ……」
「……」
俺はそっと言い添えた。
「まだおやつの時間には早いからな……。もう少し待つんだぞ」
「わふー……」
「ぴよよー……我慢ぴよ」
「仕方ないんだぞ」
そう、我が家のルールのひとつ。
決まった時間以外のご飯とおやつは、我慢すること。
……もちろん俺も耐えているのだ。
右手から魔法でいくらでもおいしい果物を生み出せるが、耐えなければならないのだ。
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