686.ネクストチャレンジャー
「ふぅ……様になってきたな」
特訓の末、油まみれの訓練所をかなり高速で走り回れるようになった。
体幹と魔力のバランスを意識し、慣れていけば――意外とやれるものだな。
「ええ、上達されましたね……! この短時間でさすがです!」
「ウゴウゴ、軽快に走れてる!」
「ありがとう。でもこれはステラの教え方が良かったからだな……」
きゅむっと腰を捻ってみる。
そのまま、ぽむぽむとしっかり大地を踏みしめ……魔力を着ぐるみに渡すのも忘れずに。
この一連の流れを付きっきりで教えてくれたからこそ、スムーズに学ぶことができた。
「独学なら相当の時間がかかったろうな」
「ウゴ、やっぱりコツがいる?」
「アシスト機能を活かすタイミング、というものがあるんだ。ステラがこの時はこう、と教えてくれたから理解も早かったが」
「いえいえ、普通ならこんなに早く慣れることはないと思います……! ヴァンパイアの子どもも、時間をかけて覚えるものですから」
確かにナナの動きは軽快だ。戦闘でも着ぐるみだからといって反応や動きが遅れることはない。
それを言ったら、ヴィクター兄さんも同じだが……妻がヴァンパイアだったはずだから、教えて貰ったんだろう。
「ぴよー……」
「……わふー」
ちなみにディアとマルコシアスは日差しの心地よさですやすやとお昼寝している。
油を塗るのに身体を動かしたからな。俺も実を言うと、かなり疲れたので休みたい。
「とりあえず、ここまでにしておくか……」
「ウゴ、おつかれさま!」
「そうですね。続きはまた明日……で!」
……ステラの目からすると、まだまだらしい。
「こんにちは〜……って、何してるんです?」
と、そこへナナがぽにぽにと歩いてきた。
「こんにちは、ナナ。この即席の訓練場で着ぐるみ時の動きを練習しているんだ」
「どうです? 中々のものでしょう?」
ステラはちょっとドヤ顔だった。
「なるほど、よくできてるね」
「ウゴ、俺も作るの頑張った!」
「第4層攻略に必要なものを書類にまとめて来たんだけど……ふむふむ」
ナナがじぃっと訓練所を見つめている。
どうやら好奇心が刺激されたらしい。
「ナナもやってみますか?」
「おお、見てみたいな」
「いいの? じゃあ、ちょっとお邪魔しようかな」
ナナはそういうと、スタート地点へとぽにぽに歩いていく。
「ちなみに油が塗ってありますので……」
「テカテカしてるのはそれか……。4層は氷の世界だっていうからね」
ナナがきゅむきゅむと着ぐるみの身体をひねる。
俺とウッドはこそこそとささやいた。
「ウゴ、きっとすごい動きが……!」
「多分な……」
準備運動を終えたナナがぐっと身体を屈めて走る体勢になる。
やはり体幹はしっかりしているな。さすが着ぐるみ慣れしている。
「よし……!」
ナナが気合いを入れ、てててーっと走り出した。
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