683.由緒正しい油
ザンザスのダンジョンへ、ナナも同行することになった。
奇遇にも『鏡面の雪結晶』が必要らしい。というか、そんなレアな素材を使っていたのが驚きだった。
さすがSランク冒険者のメインウェポンということか……。
「ナナが同行してくれるのは心強いですね」
「確かにな。彼女は雪国の出身だし」
ナナは同行の件を伝えに来て、すぐに帰っていった。彼女も彼女でちゃんと準備をするとのことだ。
俺は今、家の庭で着ぐるみを身につけて立っていた。
目の前には木の箱が段差をつけて重ねられている。
あとは木の板もだな。簡単なアスレチック場ができていた。
これで氷と水の歩きづらい世界を再現するらしい。
「こんな感じなんだぞ?」
ぺたぺた。
マルコシアスが油を含んだハケを持ち、木の箱に塗りたくっている。
「ええ、いいですね! その調子で全体をつるつるに……!」
「わかったぴよよ!」
ディアもハケを持って、油をてててーっと塗りたくっている。
この油は特殊な油でよく滑るらしい。ザンザスの冒険者ギルドでも訓練用に使われる、由緒正しい油なのだ。
「ウゴ、木の板はもう少し?」
「そうですね……やや斜めになるような形で、はい、そのくらいの角度で……」
「俺は立っているだけでいいのか?」
それらの木の箱や板は俺が生み出していたものだが、手持ち無沙汰である。
「エルト様のための訓練ですからね。そう、微妙な角度や段差はお任せください……!」
俺が設営に参加するのはダメらしい。こういうことは決して妥協しないステラであった。
「わっふわふ。わふふー♪」
マルコシアスが楽しそうにハケを使って油を塗っていく。もちろんマルコシアスの足に油がくっついていた。
「ぴよ! マルちゃん、そろそろぴよよ!」
「わふふー、我が主のパワーを借りるんだぞ!」
マルコシアスがディアにくっつく。
ぱぁぁぁ……!
コカトリスに備わる浄化力により、マルコシアスの身体についた油が消え去る。
「オッケーなんだぞ!」
「ぴよ! あともうちょいぴよ!」
うーん、すごく便利な力だ……。
「ディアにも綺麗好きの力が宿っていますね」
ステラが満足そうに頷く。
「ぴよ! 油作業もおまかせぴよ!」
てててーっとディアの作業は早い。
まぁ、油汚れを気にする必要がないからな。油が飛んでいるように見えても、すぐさまディアの身体から汚れは消え去っている。
「ウゴ! 箱と板を全部置いたよ!」
「ありがとうございます……!」
「あともうちょいなんだぞー!」
「ぴよよー! ぬりぬりするぴよー!」
……というわけで油が塗られた訓練所が完成した。
うーむ、つるつるしそうだ。
着ぐるみでこれはなかなか辛い……。
「では、まずはわたしから……」
ステラが言って、しゅぱっと訓練所に駆け出した。
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