677.壊れた天秤
南の諸国から来た砂コカトリスにとって、やはり砂はあったほうがいいらしい。
なので早速、ザンザスから砂を取り寄せた。
今、コカトリスの宿舎の一角に冒険者たちが砂をまいているところだ。
「すぐに砂が手に入ってよかったな」
「にゃ! 園芸用にいいのがありましたにゃ。細かくてさらさらですにゃ」
「はわー。これはなかなかの砂ですよー」
砂を選定したのはナールとテテトカだ。
「でもぼくたちにとって、砂はこってり感がないですからねー。あっさりしすぎてます」
「……こってり感?」
「水が抜けちゃうのは、物足りないのですー」
「そういうものかにゃ」
「そういうものですー」
ドリアードにはドリアードのこだわりがあるらしい。確かに言われてみると、ドリアードの植木鉢に砂が入っているのは見たことがない。
アラサー冒険者がざざーっと袋から砂をまいていく。
「どうですかい、この砂は」
「ぴよ、ぴよ……」(さらさら……)
砂コカトリスは寝転がりながら、羽で砂をぺちぺちしている。
「ぴよぴ……」(よき……)
砂コカトリスは綿をたぐり寄せると、ちぎって枕代わりにした。頭は砂でないほうがいいらしい……。
しかしうっとりした表情から、満足しているのがわかる。コカトリスの顔はわかりやすいからな。
こうして砂をまき終わった俺たちはコカトリスの宿舎を出た。
そこでナールが声をかけてくる。
「にゃ、ちょっとよろしいですにゃ?」
「うん? 構わないぞ」
ナールに連れられ、彼女の工房へと移動した。
奥の実験室に巨大な天秤が置かれている。
俺の肩幅くらいだな……。天秤自体はこの世界にもあるが、これほど大きなのは初めて見た。
「父からこれを送られましたのにゃ」
「ふむ……ずいぶんと大きな天秤だな」
大きさだけでなく、細かな装飾も凝っている。
おそらく貴族向けの天秤だろうか。
「これがどうかしたのか?」
「にゃー。この天秤は魔力を測れるのですにゃ、でも今は壊れてましてにゃ」
「魔力を? 中々凄いじゃないか……」
俺が知る限り、そうした魔法具はとても高価である。そこでナールが言葉を切った。
「ザンザスの4層に修復の材料がありますのにゃ」
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