674.ぴよと砂ぴよ後編
夕方になるとコカトリスたちは宿舎へと帰る。
さすがにそのまま野外で寝過ごすコカトリスは稀なのだ……。
たまにお昼寝しすぎて夜を迎えるグループもあるが、そうした場合でも仲間のコカトリスに担がれて宿舎に戻ってくる。
寝床の綿の上では、砂コカトリスがうつ伏せに広がっている。実に気持ち良さそうにぴよぴよしていた。
「ぴよ……」(きもちいい……)
その側でレイアがうつ伏せの砂コカトリスの肩や背中をもふもふ……もといマッサージしている。
「ふふふ、どこも凝っていませんね」
コカトリスの身体は力の入れ方で硬くもなれば柔らかくもなる。
もっとも力が入るのはご飯を求めてダッシュする時であり、それ以外はたいていふにゅっとしていることが多い。
「さて、それでは……」
一通りマッサージを終えたレイアが、身体を曲げる。そしてそのまま、砂コカトリスのふわもっこに顔を埋めた。
「はふ……っ!」
思わず声が漏れるレイア。
その様子を眺めている近くのコカトリスは――。
「ぴよよ?」(あのマッサージ屋さんはどうしてマッサージを終えると、いつも顔をくっつけるの?)
「ぴよ……!」(一説によると、ああしないと摂取できない栄養があるらしい……!)
綿の上でこそこそと話し合うコカトリス。
ちなみにレイアのイメージは謎の帽子を被った謎のマッサージ屋さんであった。
「んんっ、天国とはまさにこのこと……。毛の先端は硬め、しかし奥はふわっと……」
「ぴよー」(もふられてるー)
コカトリスはスキンシップを嫌がることはない。むしろマッサージ後のスキンシップは大歓迎であった。
少しすると、宿舎にナナが現れる。
「やっぱりここにいたの」
「あれ? もう夜ご飯の時間ですか?」
レイアが顔を上げる。気のせいかお肌がつやつやになっていた。
「今日は僕の特製トマト煮込みとボロネーゼスパゲッティだよ」
「ああ、美味しそうですね……! ではぴよちゃん、私はこれでっ!」
すちゃっと立ち上がったレイアは、ナナとともに家に帰っていった。
「ぴよー」(またね、マッサージ屋さんー)
こうしてコカトリスだけの空間が戻ってきた。
夜ご飯を食べながら、コカトリスたちはとりとめのない夜話を始める。
「ぴよ」(こうしてゼウスの加護を受けた松尾芭蕉は草だんごを持って旅に出ました。途中、フェンリルと孫悟空とコカトリスが仲間になり、月の裏側にいるという孔明の元へ――)
「ぴよ……」(色々混ざってるね)
「ぴよ……」(ちゃんぽんしてるぜ……)
世界の初めから、コカトリスたちによって語り継がれた無数の物語がある。
もはや松尾芭蕉が何なのか、コカトリスは覚えてはいなかったが……遥か遠い昔、そんな言葉をコカトリスに教えた人たちがいたのだった。
「ぴよぅ……」(むにゃむにゃ――そうして、混沌の世界に降り立った『彼ら』は世界をこねこね、知りうる形に……)
いつの間にか夜も更けていた。
コカトリスたちはいつの間にか寝落ちして――気持ちよく、すやすやと眠り始めたのであった。
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