665.小さな進化
「やぁ、ようこそ」
ナナは俺たちを見ると、ぴこぴこと羽を振った。
俺たちも羽や手を振りながらスペースに近寄った。
「きたぴよよ!」
「わふー。見て回ってるだぞ」
「ウゴ、何をやってるんだろう?」
「突発だと聞いたが……」
スペースには3枚のパネルがあった。
机に冊子はなく、見て回ったスペースの中でももっとも簡素だな。
これは仕方ないが。
それでも数人の学者がナナのスペースにはいた。
「ほうほう、そんなふうに……」
「この着眼点は……」
かなり熱心に見入っているようだな。
「ちなみにどんな研究なんだ?」
「あの砂嵐の中で戦った、ファントムと砂と精霊についてのまとめだよ。耐久力とか、行動パターンとか」
「ぴよ! もうまとめるぴよ!」
「わふー。実用的なデータなんだぞ」
戦いの中でもしっかりデータ取りはしてたんだな。そのあたりはやはり、学者でSランク冒険者か。
ナナのスペースを見て、他のスペースもぐるりとひと回りした。
学会はまだ数日続くが、後半は討論会や表彰が主だと言う。なので俺たちは明日までなのだ。
午後にはヒールベリーの村へ戻ることになる。
夕方になり、俺たちはステラと合流することにした。
会場の人は全く減っていない。
まぁ、学者は思い思いに動いているが。
誰もが熱心だな。
「ぴよ……。気がついたぴよ?」
「わふー。もちろんなんだぞ」
「ウゴ、俺も気がついた」
子どもたちは会場の異変に気がついたようだ。
俺も少し前から気がついていた。
「……もちろん」
バットをバッグに差している人、背負っている人、従者に持たせている人……。
つまり、その……。
「ぴよ。会場にバットが出回っているぴよね……!」
「ボールもなんだぞ」
「ウゴ、グローブもだね」
……どうやら布教の効果はすでに出始めているらしい。
ステラのところへ戻ると、さすがに人は少なくなっていた。
それでも数人が興味深そうにバットを持っていたが。
ひとりの学者がバットを手に取りながら、ステラと話をしていた。
「このバットに特殊な加工が……?」
「特にありませんが……」
そこでステラがすっとバットを指差す。
「……差し上げますから、持ち帰って研究してみてはどうですか。私の知らない何かがあるのかも……」
ステラのセリフが進化していた。
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