657.竜を撃つ
その隙を逃すステラではなかった。
尊いナナの犠牲を無駄にしないために……!
ステラは黄金の魔力をまといながら、砂嵐の竜へと駆け出す。
「いきます……!」
「グォォォォォッ!!」
砂嵐の竜が片脚で巨体を支える。
しかし魔力は不安定になりつつある。あとひと息だった。
「はぁぁぁっ!」
ステラは大地を蹴って砂嵐の竜へと向かう。
狙いは太い首。そこに核がある。膨大な魔力が集中する核を壊せば、全てが終わる。
視界の端に上半身が埋まっているナナぴよが見えた。見た限り、着ぐるみは壊れていないようだ。
核を狙うステラを砂嵐の竜が睨みつける。巨大な頭部をぶつけようと、振りかぶってきた。
「たとえそれが大きかろうと……っ!」
ステラは竜の片脚に飛び乗った。勝負は刹那の一瞬で決まる。
砂の凝縮した、隕石のごとき竜の頭部。
向かってくる竜の頭部を、ステラはぐっとバットを握り――渾身の力を込めて振り抜く。
ドッゴォッッ!!
猛烈な岩を砕く轟音が鳴り響く。
ステラの一振りによって、竜の頭部は首ごと空へと吹き飛んでいった。
「会心の一発です……!」
竜の魔力が完全に霧散していくのを感じる。完全に振り抜いたステラは微笑みを浮かべた。
竜の巨体が完全に砂になって、風に舞って散り散りになる。
ステラは崩れる片脚から飛び降りつつ――。
「ナナぴよを回収しなくてはっ」
すちゃっとさきほど確認したナナのそばへと着地する。鞭を片手に持ったナナが羽をぴこぴこさせた。
どうやらちゃんと無事らしい。
「やったね……!」
「ええ、ナナぴよが囮になってくれたおかげで」
「いやいや、ちゃんとステラが決めてくれたおかげだよ」
上半身が埋まったナナがふにっと羽を掲げた。
竜と一緒に塔も吹き飛び、周囲の魔力そのものが大きく不安定になっている。
もうすぐここも崩壊するだろう。
「じゃあ、僕を引っ張りあげて……」
「……そうすると地面ごと『ぱりん』ていきそうなんですよね」
ふむ、とステラはバットを腰に戻しながら頷いた。
無理にナナを引っ張り上げてもあまり意味はなさそうだった。
さながら今のナナは薄氷に刺さっているようなものなのだ。
「むしろ押し込んだほうが、いいかなと」
お読みいただき、ありがとうございます。







