650.もうひとつの嵐
その頃、ステラたちはずんずんと嵐の中心へと進んでいった。
「手頃な石があるのは、ありがたいですね!」
ステラはバットを振りながら、身体を滑らせ尖った石を拾う。それに魔力を込めて投げるのだ。
そのたびにファントムが弾け飛ぶ。
「当たり判定は頭と胴体の真ん中、と……」
「本当に砂の精霊より倒しやすいの?」
「込める力と魔力は少なめで済みますからね……!」
「そ、そう……」
そんな風に話しながら、ふたりは嵐の中心へと近づいていく。気のせいか、魔力の流れに含まれる変化音が早くなってきた気がした。
ダダダダーッ!
今、ふたりの遥か遠くではエルトたちが必死にボタンを連打しているのだ……。ふたりは知る由もないが。
「僕が思うに、魔力が集まるスピードが少し鈍ってきているかも?」
「ですね。この連打と関係があるのかも……」
ステラが少し耳をぴくぴくさせる。
嵐の中心はすぐそこ、ふたりは黒い砂が舞う中心部へとやってきた。
そこには魔力と砂で作られた黒い塔が立っている。
どことなく、チェスの駒のような雰囲気だった。
「これが……中心?」
ナナがぽよっと頭を傾げる。塔は漆黒の輝きを放っていた。
不思議なことに一定の間隔で黒い塔から魔力の波が発せられている。
ステラはすぐ魔力の波のパターンを解析した。
「どうやら連打に応じて、この塔も反応しているようですね」
「ふぅん……。でも壊せばいいんでしょ」
「それはそうですが……」
瞬間、ダンジョン内全体が振動する。
「うわっ!?」
「とと、まさか……!?」
同時に砂の精霊とファントムが上空から降り注いできた。魔力の密度も息苦しいほどになっている。
「もうひとつの砂嵐が来てしまったようですね……!」
「まだ時間があるはずじゃ!?」
「どうやら引き寄せあっていたのかも……。中にいて気がつきませんでした」
とりあえず迎撃しないといけない。
ステラとナナが構えた瞬間――ヴィクターの声がした。
「ちょっと待ってくれ」
「ふえっ!? 博士……!?」
ステラが声のしたほうに振り向くと、ヴィクターの着ぐるみのうち、頭だけがにょっきりと砂漠から生えていたのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。







