608.夜が近づいて
その頃、ヒールベリーの村。
大樹の塔の前でナールは優雅に読書をしていた。
「にゃんにゃーん」
ナールが夕陽を見上げながら、読んでいた本をぱたりと閉じる。
本の題名は『新々英雄ステラ伝説』という、ステラが読んだら卒倒しそうな本であった。
「おや、その本は……」
夕方のお茶をしに来たアナリアがナールに声をかける。
「にゃ! ザンザス議会で編纂している本の書きかけにゃ」
「ふむふむ……途中までできていると聞きましたが」
アナリアはナールの前に座りつつ、お茶の準備を始める。
ナールも茶葉の用意を手伝いつつ、頷いた。
「ステラが復活する以前にスタートしてるにゃ。だから今は真実じゃないこともあるにゃ」
一番最初にナールがステラと会ったとき、黒檀を折るとか……実際は粉々にしたのだ。
その他にもステラが目覚めてから、真偽が判明したことは多い。
「……つまりごっそり書き換えですね」
「そういうことにゃ」
「でもステラはそういうの、嫌がると思いました。本とか、銅像とか……」
「途中まで書いてたから、セーフだったみたいにゃ」
「ああ、なるほど……。無駄にはさせたくないと」
「にゃ! でも正直、書くのが追い付かにゃいみたいにゃ」
「追い付かない……?」
そこでナールは指を振った。
「伝説は増えていくのにゃ……!」
◇
砂漠の宮殿。
時刻の上では夜になったが、砂嵐が止む気配は全くなかった。
窓ガラスには砂粒がひっきりなしに当たり、雷鳴はとどろき続けている。
「……今夜はこのままかな」
砂コカトリスもサボテンを食べ終えて、うとうとしていた。しかし眠くても無秩序に寝転んだりはしない。
……輪になって、前のコカトリスにもたれるようにしている。
「ぴよちゃんサークルですね……」
「うむ、とりあえず満腹になってすやすやしそうだな」
大広間はいくつもあるし、場所的には問題ない。
ただ、砂嵐がおさまらないと外には出られないな。
「連れてきた手前、俺たちが自分の部屋で寝入るのは……」
「もちろん、大丈夫ですよ。砂ぴよちゃんを見守りながら寝ましょう……!」
「ありがとう……」
ステラならそう言ってくれると思った……!
そろそろ夜ご飯の時間か。
ディアたちはまだ窓の外を見ている。
しかし……この砂嵐、やはり妙な砂嵐だな。
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