599.バットはときに短く持って
その頃、大広間にて。
砂の精霊がゆっくりと近づいてくる。
ステラはすでにバットを構えている――だが、どことなく余裕そうだ。
「せいっ!」
飛び込んできた砂の精霊にバットを振り抜き、先端を当てた。砂の精霊は木っ端微塵だ。
そこからも続けて何体か砂の精霊がステラに近寄る。しかし、バットの射程に入った瞬間に、ステラは精霊を迎撃していた。
ナナがゆっくりと俺に近寄る。
「トマトある?」
「あるぞ」
着ぐるみの羽を通して、俺は魔法を使う。
ぽんと着ぐるみの羽の上に、数個のトマトが生まれた。俺はそれをナナへと渡す。
「ありがとう〜」
「気にしないでくれ。今回もたくさんの野ボール用品を運んでもらっているからな」
「あはは、楽にはなったけどね」
ナナが笑いながら、トマトを1個くちばしの奥へとツッコむ。
その間にも砂の精霊を打ち落とし続けるステラ。
あれだな、連続ノックみたいだ。
「さすがにこの程度では、移動もしないな」
「うん、腕の動きだけで十分だね」
そんな野ボール観戦者みたいなことを言っていると、ヴィクター兄さんが羽をあげた。
「そろそろ増やして高速で行くが、大丈夫か?」
「はい、どうぞ!」
ヴィクター兄さんがぴこぴこと羽を動かす。
同時に砂の精霊がずらっと生まれる。
その数、8個。
一気に増えたな。
「ごーっ!」
ヴィクター兄さんの合図で、砂の精霊が一斉にステラへと向かう。
「せいっ!」
しかしステラは逆に砂の精霊へと突撃していった。
その動きに学者先生たちが驚きの声を上げる。
よほど意外だったらしい。
「なっ……まさか!?」
「逆に向かってくるだと!」
ナナはもしゃもしゃトマトを食べている。
「勝負あったね」
「うむ、ステラの動きに対応できてないな」
俺の見立ては間違いではなかった。
ステラは短くバットを握り、まとめて数個ずつ砂の精霊を撃ち抜いていく。
多分、1割の力も使ってなさそうだな。
「内野安打狙い……」
「なにか言った?」
「いや、なんでもない」
あっという間に砂の精霊はすべて倒された。
ぱらぱらとした欠片が大広間に散らばっている。
精霊魔法の弱点をうまくついたな。自律性のない精霊では、ステラの動きについていくことは到底不可能だ。
「さぁ、次はどうしますか……!?」
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