590.オアシスの要塞都市
サボテン水を飲んで一休みし、砂漠の街を出る。
時間があればもう少し見て回りたかったが……それは帰りでもいいだろう。
またスクラムを組んで、ばびゅーんと空を行く。
ヴィクター兄さんが、これからのことをおさらいしてくれる。
「あと数時間飛べば目的地、オアシスの要塞だ」
「南の諸国の会合場所になっているんだったよな」
本であらましは知っている。
豊かな泉と肥沃な土壌があり、強固な城塞都市になっているらしい。
「そうだ、砂漠でも魔物の脅威は尽きない。いざというときに立てこもれるよう、オアシスに建設したという」
「ウゴ、北の大聖堂と同じ?」
「賢いな、その通りだ」
なんだろう、ヴィクター兄さんに子どものことを褒められるとむず痒くなる。
悪い気はしないけれど。
砂漠を見下ろしながら飛び続けて、2時間くらい経ったか。
砂煙の向こうに、薄ぼんやりとオアシスの要塞が見えてきた。
白い煉瓦の大要塞は丸みを帯び、砂が溜まらないようになっている。
その周囲には堀を兼ねた小川とヤシの木、それに大量のサボテンだ。
ぐるっと囲むような壁はないが、煉瓦造りの城下町はかなりの威容を誇っている。
それでも要塞本体を除けば、ザンザスの数分の一と言ったところか。
レイアがサボテン畑を指差す。
「さっき飲んだサボテンと同じですね!」
「ウゴ、大量にある! もしかして栽培している?」
「ああ、どうやらそうみたいだな」
注意深く見ると、ところどころで農作業している人がいる。
「さて、近くに降りて歩いていくか」
「わかった」
サボテン畑の近くに降りて要塞を見上げる。
白い要塞の大きさはすごいが、色が白なのでまだ圧迫感はない。
「ぴよー。でかぴよねー!」
「わっふ。あれが会場なんだぞ?」
マルコシアスがぴょこっと前脚で要塞を指す。
ヴィクター兄さんがお腹をごそごそしながら答える。
「ああ、近くにあるように感じるが、少しあるくことになる」
てってれー。
ヴィクター兄さんが取り出したのは、白色の封筒だった。
「これが招待状だ。まぁ、俺は顔パスだが」
「顔見えないぴよ」
「この着ぐるみでも通る。有名だからな」
「まじぴよかっ!?」
ヴィクター兄さんはコカ博士としてのほうが有名かもだからな。
「いくつか道があるが――ここからも入れるな」
ぴこぴことヴィクター兄さんがサボテン畑を示す。
俺はそんなヴィクター兄さんに頷いた。
「サボテン畑もちょっと興味深い、ここから行こう」
そこでステラがにこっと微笑む。
「では、ここからはめちゃかわエルぴよちゃんのノリで……れっつごーです!」
……ということらしい。
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