578.砂の国へ
ナールの工房にて。
テテトカとジェシカ、ナールが生簀を色々とチェックしていた。
「ふんふんー」
「ご機嫌ですわね、テテトカ」
「はいー、こんなに鱗がゲットできていますからー」
テテトカがにこやかに微笑む。
レインボーフィッシュの鱗はドリアードにとっておいしいおやつなのだ。
「水が変わってからレインボーフィッシュもよく育ってますにゃー」
レインボーフィッシュは栄養豊富でストレスがないと鱗を落としてちょっとずつ大きくなる。
とはいえ、その速度はかなり遅いが。
「マルデ生物も育っているけど、いまいちですにゃーん……」
「難しいですわね。その辺りは手探りですもの」
「にゃ、そろそろ次の実験もいいかもですにゃ」
「次の実験ー?」
「にゃ! ここは全然、自然がないにゃ?」
テテトカが生簀をじっと見る。
「ですねー。砂しかないです」
「水草とか、他の生き物は入れていないですわ」
「湖の調査でそこそこデータは集まってますにゃ。暖かくなれば潜っての調査も進みますにゃ」
「なるほどー。色々と肥料や土をまぜまぜして試すみたいな感じですねー」
「そういうことですにゃ!」
ナールの言葉にジェシカも頷く。
「私もお手伝いいたしますわ!」
「ありがとですにゃー!」
「鱗が増えるのは楽しみですねー、水草なら任せてくださいー」
◇
それからまた数日。
いよいよヴィクター兄さんがやってきた。
朝の日差しのなか、俺たち家族は広場に集まっている。
「ふぅ、いよいよだな」
「ええ、そうですね……!」
今回もエルぴよちゃんでお出かけだ。
他にはステラ、ディア、マルコシアス、ウッド。
それに野ボール用品をぱんぱんに詰め込んだナナ、北の国へ同行したレイアか。
「家一軒分の野ボール用品は必要なの?」
「ふふふ……ときに物事は必要性ではなく、不足が起きないようにすることも大切です!」
「ウゴ、言い切った……」
「すごい理屈なんだぞ」
ま、まぁ……最終的にナナも収納してくれたんだしな。しかし初夏に入り、かなり暑くなってきた。
この着ぐるみは冷房機能があるから、大丈夫だが。
むしろこの着ぐるみを脱いでいるときのほうが汗をかくかもな。
「ぴよ! お空からなにかくるぴよ!」
ディアが空の向こうを羽でぴっと指し示す。
ふよふよふよー。
黄色い何かがこちらに飛んでくる。
うむ、どう見てもヴィクター兄さんだな。
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