577.野ボールだけは特別です
「理論上は確かに魔力を早く浸透させればいいけれど、そんなに簡単じゃないよ」
「わかっております。まぁまぁ、物は試しです」
そういうわけでナナとステラは並んで立った。
ナナの左手とステラの右手が繋がり、ステラの左手にはバットの山がある。
もふもふ。
ステラは油断なくナナの着ぐるみの手の触り心地を確かめる。なかなか素晴らしい……!
「じゃあ流すよ?」
「あっ、はい!」
ふぉんふぉん……。
魔力の波動が着ぐるみを通してステラへと伝わる。
それをステラは受け取り、自分の魔力に同調させて増幅――バットの山へと流し込むのだ。
「加減してるけど、大丈夫?」
「大丈夫です……どうですか?」
バットの山にふにっと手を置いているのはマルコシアスだ。
「流れているけど、いくらかプラスなだけなんだぞ」
「むむっ……!」
「人を介して魔力を流すのはハードル高いはずだけどね……できているだけでもすごいよ」
そこでディアがぴよっと羽を上げる。
「その魔力のぞーふくなら、あたしできるかもぴよ!」
「本当ですか!?」
「ぴよ! かあさまとバットの間に挟まるぴよよ!」
ステラがバットの横に台を置き、ディアがすちゃっとスタンバイする。
ふにっとディアの羽に触れて、ステラが言う。
「準備オッケーです……!」
「大丈夫かなぁ?」
「ぴよ! 覚悟はできてるぴよよ!」
「いえ、危険はないはずですが……」
「じゃあ、いくよー!」
ナナが着ぐるみを通して魔力を流す。
それをステラが受け取り、多少の変換を加え――ディアへ渡す。
「きたぴよー!」
ふぁささーー……!
魔力が風のように勢いを増して、ディアへと流れ込む。
「我が主、大丈夫なんだぞ?」
「大丈夫ぴよよ。ほんのり……トマト味な魔力なだけぴよ」
「僕の体の大半はトマト由来成分だからね、仕方ないね」
「でも、そこまでわかるのですか? わたしには、トマトかどうかまではわかりませんが」
「ぴよ……! かあさまは通り抜けているから、分からないのかもぴよね」
「な、なるほど……」
着実に成果は上がっていた。
ナナの魔力がものすごい勢いでバットへと浸透していく。
「おお、すごいんだぞ!」
「……僕も驚きだよ。まさか本当にできるなんて……」
しかし問題はあった。
魔力が浸透するのは野ボール用品だけだったのだ。
他の着替えや品物は高速浸透の対象外であった。
「……かあさまの魔力が伝わらないからダメぴよね」
「うぅっ……」
「野ボール関連じゃないとダメっぽいんだぞ?」
「かあさまの野ボール魂だけが頼りだから、ダメぴよね……」
ともあれ、過去最大規模の野ボール用品をナナに詰め込むことができるようになった。
出発まで、あと少しである。
ナナぴよ、ありがとうなんだぞ……⊂(・ω・*⊂)
お読みいただき、ありがとうございます。