573.たぷの奥までよく効く
エルトがトマト食べ食べ訓練を終えて。
レイアはコカトリス宿舎でコカトリスをマッサージしていた。
「筋肉のこわばりやコリをほぐしましょう……!」
そうして取り出したのが、太い棒状のマッサージ器具である。
「それはなんですー?」
通訳のテテトカが草だんごと植木鉢に入りながら聞く。なお通訳料はこの植木鉢の土で、貴族邸宅用の高級土なのである。
「マッサージ用の震える魔法具ですね。底の部分に魔石をセットして、スイッチを入れると――」
ぶるぶるぶる!
マッサージ機が勢い良く震えだした。
「へー。なるほどー」
「問題は威力の調整ができなくて、かなり強めの刺激なのと……不安定で爆発的に震えるときもあるということですかね」
「怖いですねー」
「一部の物好き、肩や腰を壊したそこそこの貴族や商人のためのモノですかね」
貴族や商人はデスクワークが多い。
長期間のデスクワークは首、肩、腕、腰に必然的不可逆的なダメージを与えるのだ。
もちろんレイアもそうである。
「ふーん、誰かにやってもらったらいいと思いますけどー?」
「防犯上の理由で、それもなかなか……」
「変わってますねー」
相応のお金持ちなら、信頼できるマッサージ師を雇うこともできる。しかしそこまで裕福でない場合、こうした魔法具のほうが結果として安上がりで信用できるものになるのだ。
レイアの前にはうつ伏せのコカトリスがぴよぴよしている。
「ぴよ」(肩は全然こってないけど、マッサージは受けたい)
「マッサージして欲しいそうですよー」
「はーい!」
レイアはウキウキ気分でマッサージ機をコカトリスの背中に押し当てる。
ぶるぶるぶる!
かなり強めの揺れがコカトリスに降りかかる!
「ぴよよー」
((( ╹▽╹ )))
「どうですか? ほぐれてますか?」
((( ╹▽╹ )))
「喋れないみたいですよー」
「おっと、それは失礼しました」
レイアがすっとマッサージ機を上げる。
「ぴよよ!」(なかなかよかったから、もうちょい下で! 腰くらいで!)
「腰くらいがいいそうですよー」
「わかりました!」
ぶるぶるぶる!
レイアが腰っぽい場所にマッサージ機を当てる。
多分、この辺だろう。
「ぴよよー」
「あれ?」
レイアが首を傾げた瞬間、マッサージ機が暴走を始める!
「ぴよよよよよよよよよよー!」
(((((( ╹▽╹ ))))))
「あっー! ごめんなさい!」
マッサージ機を離すレイア。
しかしコカトリスはふにっとレイアを見つめた。
「ぴよ……」(このくらいの刺激でも良かったのに……)
「このくらいの刺激でもいいみたいですよー」
「そ、そうなんですか?」
「ぴよちゃんは頑強ですからねー。刺激はこれくらいあったほうが……」
「わ、わかりました!」
レイアの手の中には激しく震えるマッサージ機がある。
そこへ――。
「ぴよよー」(何してるのー?)
「ぴよー!」(楽しそー!)
親子コカトリスが帰ってきたのであった。
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