562.特使へのもてなし
もふ、もふ……。
レイアは皆の死角からコカトリスの背中に顔を埋めていた。
「ふふふ……」
仕事はちゃんとこなしていた。
特使とエルトを引き合わせたことで、少しの間フリーになる。
その合間――皆が魔導トロッコに注意している間にもふるのだ。
当然、このスケジュールはレイアが作成したものだ。時間を制すものは全てを制するのである。
「ぴよー」(たのしそー)
当のもふられているコカトリスも、魔導トロッコと人の群れに気を取られている。
少しの間忙しかった分、もふるのだ。
「……おや?」
レイアが顔を上げた。
向こうでは別のコカトリスがいる。そのそばにはステラが立っていた。
しゅっもふ。しゅっもふ。
なんとステラも人に知られないようもふもふしている――!
ステラは高速で抜き手のようにコカトリスをもふっていた。
もちろんコカトリスも何が起きているかわかっていない。
「ぴよ」(今日のおやつは少なめ……いや、多め……)
さすがステラである。
触られていることさえ気がつかない速度で触る。
(いつか、私もあの高みへ……!)
どうでもいいが、そんなことを考えていた。
◇
魔導トロッコの案内が終わり、特使を冒険者ギルドのレストランへと案内する。
「いやぁ、実によろしかったですな……」
「そう言ってもらえるなら、こちらも嬉しい」
特使の団とこちらの村の代表。
揃っての会食だ。
「これが辛味炒めですか……!」
特使が真っ赤な炒め物を見て目を輝かせる。
「おかげで売上も上々だ。村の名産になりつつある」
「にゃ、村に来た半分以上の人が食べていきますのにゃ」
英雄ステラ直伝のレシピ! とか書かれたら興味を持つよな、うん。
「いくつかはザンザスでも食べましたが、いやはや本場の村で食べるとさらにおいしく感じますな」
「ありがとう。たくさん食べてくれ」
この特使は事前に聞いていた通り、何でも食べるな。辛味も全く躊躇なく食べ切った。
他にも高級紅茶や菓子でもてなす。
「あとはこのメニューも始めてみようかと思ってな」
俺の合図で料理人達が次のボウルを持ってくる。
「ほ、ほう……それは氷ですかな?」
そう、調整したアイスドラゴンの牙である。
まだ上には何もないので、削った氷の集まりだが。
試食してもらうにはいい機会だろう。
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