550.伝言とおみや
「…………」
はっきり言ったな。それがステラだが。
「……そうか……。発売はいつ頃だ?」
「食い下がるもぐ」
「簡単には諦めないな」
「そもそも売り物かというと、そうではないのですが」
うむ、ぴよシートは魔導トロッコ用の物だからな。
「そうなのか……? こんなにふかふかなのに」
悲しそうなヴィクター兄さん。
いや、悲しそうにしないでくれ。
まぁ、手土産代わりに何か渡すか。シートでなくとも。
俺はステラの側にすすっと行く。
「……小さなクッションか何かなかったか?」
「ありますね。……それを渡しましょうか」
「ああ、気に入っているみたいだしな」
ステラが工房の奥に置いてあるぴよクッションを持ってきた。
ニャフ族のような小さな人向け、あるいは睡眠用のクッションである。
もちろんつぶらな瞳でぴよっとしている。
「ほほう、これもいいじゃないか。柔らかい」
ヴィクター兄さんはステラからぴよクッションを受け取る。
「ふむ、ふむ……。ぴよっとしてる」
「好きもぐねぇ……」
「そのクッションはお土産だ。持って帰って大丈夫だぞ」
「本当か……っ! ありがたい」
ありがたがられた。
「精霊学会にも君達を強く推しておこう」
「謎のコネクションが出来つつあるもぐ」
「ぴよクッションと学会が関係あるのか……?」
ヴィクター兄さんがぐっとぴよクッションを抱きかかえる。
「腰を痛める仕事だからな。この柔らかさは腰痛にも効果あるだろう」
「割と切実でしたね……」
「研究者は常に首と腕と腰を痛め、ゆったり労る方法を探しているのだ……!」
力説する着ぐるみ。
「むぅ、このぴよシートもそういう需要があるのか……?」
「あるとも!」
「……普通に売ることは考えていなかったが、売り先が狭められているなら検討してみよう」
「そうですね、決まった相手に売り渡すのであれば……」
ステラも頷く。
学者というからには、それなりにお金も持っているだろう。
ぴよシートが普通に店先に並ぶのは、ちょっと風情がないのでやるつもりはなかったが。
この国のために首と腕と腰を痛めているなら、まぁ……。
そういうわけで、ぴよクッションを持ってヴィクター兄さんは飛んで帰っていった。
「次は精霊学会だな」
そう言い残して。
工房を出るとき、ステラが小声で嬉しそうに呟く
「ふふっ……砂ぴよちゃん」
「いや、ステラ……一応発表やスピーチもあるみたいだからな」
招待の条件は学会の研究に寄与すること。
おおまかなのはヴィクター兄さんがやってくれるらしいが。
質疑応答は軽くでも出来るようにならないといけない。
……ふむ、ゼミみたいなものか。
これはこれで楽しいかもしれないな。
お読みいただき、ありがとうございます。