548.兄のお知らせ
翌朝。
冒険者ギルドに行こうとすると、空から着ぐるみが降ってきた。
もとい、ヴィクター兄さんだった。
ぽにっと冒険者ギルドの前に着地する。
「……突然だな」
ヴィクター兄さんはぽむぽむと埃をはたき、俺に向き直った。
「ふむ、少し時間はあるか?」
「それは大丈夫だが……」
ぴっとヴィクター兄さんが羽を上げる。
「おっと、温かい飲み物は危険だからな。冷たい飲料のほうがありがたい」
「わ、わかった……」
そこで冒険者ギルドの応接間に案内して、そこで俺は首を傾げた。
「前はそんなこと言ってなかったが……」
「もう4月も下旬だぞ。そろそろ暑い。風魔法と冷却機能でマシではあるが」
「…………」
常識的な答えを……!
事務員のニャフ族にアイスティーを用意してもらう。
ヴィクター兄さんはマイストローでアイスティーをごくごく飲み始めた。
「ふむ、やはりこの村は飲み物もおいしい。茶葉と水も良いからだな」
「ありがとう……。ところで用件は?」
俺が話題を向けると、ヴィクター兄さんがぴこぴこ羽を動かした。
「正式に精霊学会が南で行われることになった」
「おお、そうか……」
「いくつかテーマがあるが、アイスクリスタルの討伐もテーマに入る見込みだ」
ごきゅごきゅ。
ヴィクター兄さんはかなりの勢いで紅茶を飲み干していく。
「……おかわりを用意しようか?」
「いや、大丈夫だ。エルトも気を付けるようにな。着ぐるみで学会に来るんだろう?」
「ま、まぁ……そうだな。勉強になりそうだし、家族に色々と見せてあげたいから」
「いい心がけだ。実際、この国にはあそこまでの砂漠はない。せいぜい小さな砂地、荒地くらいだな」
ヴィクター兄さんがぴよっと頷く。
「地平線まで一面の砂、ときおりそびえ立つ岩山。そして点在するオアシス……そこでたくましく生きる砂ぴよ達……」
やはりコカトリスが話題に入ったか。
ヴィクター兄さんらしい。
「とりあえず仮の予定だ。学会の開催は一ヶ月後くらいになるだろう」
ヴィクター兄さんがお腹のポケットをごそごそして、折りたたまれた封筒を取り出す。
「詳しくはこちらに。一応、コカ博士の名前で登録はしておく」
「大丈夫なのか?」
「問題ない、学者しかいないからな。精霊に関わること以外に興味はなかろう」
ひどい言い方だった。
いや、自分も含めて研究者はそういう所があるかもだが。
「なのでそれなりにラフで構わないが、ラフな扱いをされても気にしないでくれ」
「わかった、そうする」
そうしてヴィクター兄さんとの打ち合わせは終わった。
冒険者ギルドの出口まで見送ったとき――。
「るんるんー」
「!!!」
いくつものぴよシートを運んでいるステラと鉢合わせたのだ。
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